イベントで財布のヒモはゆるむのか

ここでプレミアムフライデーがなぜ生まれたかを振り返っておこう。議論が起きたきっかけは、消費増税8%によって落ち込み、その後も低迷する個人消費を喚起する対策と言われているが、私見ではリーマンショックまで遡る。消費が伸びない不況下で気を吐いたのは、働く女性とシニア層だった。女性は正社員であれば自分磨きにお金をかけ、パートであればダブルインカムで余裕があり、リーマンショック後もそこまで消費は減らなかった。またシニア層は年金という固定の所得があり、今その消費は日本の個人消費の5割近くを占めるという説もある。

明るい時間から仲間と一杯。この光景は定着するのか。(時事通信フォト=写真)

この2つの層の結合点は、「イベント」である。女性はバレンタインにはマイチョコ、お中元にはマイギフトなど、自分に対するご褒美が文化になった。またシニア層は、イベントになると孫へのプレゼント、お小遣いなどで財布のヒモがゆるむ。普段は節約しながらも、クリスマス、バレンタインデーなどのイベントだけは消費が喚起されたのだ。

近年の大きな成功事例としては、ハロウィンがあげられるだろう。若者のお祭りとしても定着し、シニア層を交えた3世帯消費を促進できたことが、成功の要因とも言われる。リーマンショック後に経済効果が倍増したハロウィンは、今やイベント消費の究極の成功モデルと評価されている。こうしたイベント需要への期待からプレミアムフライデーの議論は起きた。

しかし現状に目をやれば、イベント消費疲れが起きている。昨年11月、アメリカのクリスマス商戦の最初の黒字デーであるブラックフライデーをまねて、日本版ブラックフライデーが一部の大手小売店などで始まった。安さ爆発で経済効果はあったと言われている。しかし昨年の名目賃金の伸び率は0.5%。月に40万円稼いでも増えるのは2000円だ。結局、将来不安などから節約志向に大きな変化は起きず、イベント消費は一部の大企業の需要先食いイベントになってきている。

そして本来、プレミアムフライデーは消費喚起が目的で議論が始まったはずだが、政府の意向を忖度したのか、「イベントの日には早く帰って、ワークライフバランスの促進、労働生産性向上を」と、働き方改革までもセット化された。消費喚起と労働改革の一石二鳥が狙われるようになったのである。だが働き方改革を強化し、残業を減らすと賃金が減り、個人消費が減るという矛盾も懸念されている。

そもそも、なぜ毎月末の金曜日という摩訶不思議な日付の設定になったのだろうか。ひとつは、バブル時代に流行した「花の金曜日」こと「花金」、最新のブラックフライデーしかり、金曜日は個人消費が一番動く。そして、仕事は週末・月末ほど忙しいため、仕事量を減らそうという働き方改革の趣旨にも沿う。さらにプレミアムフライデー推進協議会には多くのサービス業界が参加しており、月末の売り上げを期待して、金曜日が選定されたのだろう。だが普通に考えれば、月末金曜日は、中小企業は資金繰りや支払いに経営者が奔走。営業マンはノルマの追い込みで、誰もが忙しい。

つまり、イベント疲れ、目的の一元化、実情を無視した月末金曜日という設定。これらの要因がプレミアムフライデー失敗を招いたと考えられる。