恋愛至上主義フランスの不思議

我々にとってはビックリなマクロンの年の差婚だが、並み居る歴代大統領たちの愛の遍歴の前ではそれほどの驚きでもないのが、さすがのフランスクオリティと言えよう。「ミスター普通」と呼ばれるもっさりとしたオランドおじさん……もとい、オランド現大統領さえも、愛人である17歳年下の女優、ジュリー・ガイエの元へ通う姿を写真に撮られ、数日後に事実婚だった女性との関係を解消している。

歴代フランス大統領は、軒並み愛人がいた、あるいは恋愛関係が派手なことで有名だ。フランソワ・ミッテランには愛人も隠し子もいたし、ジャック・シラクも数人の愛人がいたことをのちに認めている。いかにもモテそうな(個人的な見解である)ニコラ・サルコジなどは3度結婚しており、大統領になる前に2人目の夫人に愛想をつかされ、その後再婚したのはあの元スーパーモデルでインテリの(そしてエリック・クラプトンやミック・ジャガーやドナルド・トランプといった名だたる色男、大物達と浮名を流し続けた)カーラ・ブルーニである!

「政治家としての人格と、プライベートの人格は別」という感覚が共有されるフランス社会。「アムール(愛)こそが人生」なので、不倫だろうが離婚だろうがなんだろうが、大統領の恋愛生活をあれこれ言うのは野暮の極みなのだという。

かつての学生運動や社会運動の激しさ、今なお続くテロへの抗議行動や、頻繁な労働ストなどを考えるに、あれほどイデオロギーのためなら断固として戦う「闘争の人々」たるフランス人が、こと恋愛となるとその拳を下げ、途端に優しく柔らかく寛容な態度を示すのも面白い。

「人間はギャップと恋に落ち、欠損を愛する」との恋愛名言があるが、マクロン夫妻の愛は、そのギャップの最たるロマンスの形。フランス国外の口さがない人々が「マニアック……」と引く25歳年齢差婚を貫く夫マクロン(39)と妻ブリジット(64)は、もしやグルメ大国フランスならではの、最上級にロマンチックなグルマン(食い道楽)なのかもしれない。

河崎環(かわさき・たまき)
1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部に入学。奥出直人教授のもとで文化人類学・比較メディア論を、榊原清則教授のもとでイノベーション論を学ぶ。大学の研究者になることを志し、ニューヨーク大学ビジネススクールの合格も手にしていたが、子供を授かり学生結婚後、子育てに従事。家族の海外駐在に帯同して欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどに寄稿・出演多数。教育・子育て、グローバル政治経済、デザインそのほか多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続け、政府広報誌や行政白書にも参加する。子どもは、20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。
(ロイター/アフロ=写真)
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