「その考え方が、そもそも常識ハズレでオカシイんだよ」
「そうですかねぇ……私は強盗をするほうが、非常識でオカシイような気がするんですが」
「確かに強盗のほうが……じゃねぇよ! 今は、そんな話をしているんじゃねぇ! 俺は、おまえの経営者としての感覚がオカシイと言っているんだ! 『銀座の賃料が高すぎて、クラブが1年で撤退』っていう話を、よく耳にするだろ」
「いえ、私はクラブには行かないですから、そんな話は聞きません。どちらかといえば、秋葉原のメイド喫茶のほうが、主戦場といえます」
「おまえの主戦場がどこだろうが、知ったこっちゃねぇよ! 今は賃料の話をしているんだ!」
「す、すみません!」
「銀座から撤退する店は、賃料の高さが本当の理由ではなく、『店のサービスも、女の子の質も一流ではないから、賃料に見合うだけの料金設定にできなくて、貢献利益が稼げなかった』っていうことだよ」
「そうか! 銀座の賃料が高いのは、その地名だけで、高所得者が集客できて、貢献利益が大きな商品でも買っていくってことなんですね。まぁ、田舎だったら、年金暮らしの低所得者ばっかりだから、安いクッキーを売るべきってことになるのかな」
「しかも、問題は賃料だけじゃない。おまえの店、銀座だから人件費も高いだろ?」
「そうなんです!」
飯島は、当を得たことを強盗に言われたので、叫ぶように話し始めた。
「とにかく、銀座は人件費が高いんですよ。田舎なら、時給700円だったのに、こっちでは、時給1500円もするんですよ。でも、そのわりには接客業がわかっている社員が、ぜんぜん集まらなくて、危機感もまったくないんです! だから、ここは思い切って、アルバイトには全員辞めてもらって、接客のプロを正社員で雇おうかって、考えていたところなんです。給料が高い社員なら、販売力もすごいはずです」
「ホントに、バカだな」
「……なんか、言いました?」
「いや、なんでもない」
男は目線を落として、1回咳払いをすると、少し声を上ずらせながら話を続けた。