「人件費も賃料と同じなんだ。貢献利益が大きい高額な商品を売ることができるからこそ、給料が高い優秀な社員を雇うことができるんだ。給料が高い優秀な社員を雇えば、接客をうまくやって、売上がばんばん上がると思ったら、大間違いってことだ」

「そういうもんですかね?」

「じゃ、もし給料が高い社員を雇うだけで売上が上がるなら、上場会社は売上や利益が下がっても、社員をリストラしないはずだろ。その優秀な社員がいろいろ考えて、売上を勝手に上げて、危機を救ってくれるんだから。でも、現実は違う。上場会社は、貢献利益が大きな商品を売れるからこそ、優秀な社員を雇い、一等地のビルにオフィスを構えることができる。まぁ、それが、貢献利益を大きくし続けることには、つながるんだけどな」

「じゃあ、私のお菓子屋の場合は、どうなるんですかね?」

「貢献利益が大きな高額な商品を売る力がない、おまえの店には、給料が高い優秀な社員は必要ないってこと」

「でもさっき、ギフト商品の販売と新商品の開発で、貢献利益をたくさん稼げるってことに、なったじゃないですか」

「それは長い目で見た場合の解決策だよ。お客さんに商品が浸透するには、時間がかかる。今、会社に残っているお金を計算しても、あと半年はもたないだろ?」

男の言う話は、もっともだった。半年どころか、来月の店の運転資金すら、持ちこたえられるかどうかの状況である。

「悪いことは言わない。強盗の俺が言うのもなんだが……この銀座の店は撤退して、もっと賃料の安いところに引っ越せ。そうすれば、このビジネスモデルに見合った賃料と人件費で、再びお店をうまく回すことができるはずだ」

(構成=斉藤栄一郎 撮影=市来朋久 撮影協力=モナムール清風堂(東京都府中市))