【トップにつきまとう孤独感】

佐藤栄作が総理大臣在任中、御用始めで伊勢神宮に詣でたとき、随行する記者団から、何を祈ったか聞かれた。笑って答えたのが、総理大臣として胸の内を打ち明けられる人もいなくなったので、そのことを神に訴えたという内容でした。

そもそも、首相や社長などのトップの座につくと、深刻な孤独感に襲われるものです。大衆の前に立つときは、身構えた「自分」にものをいわせて押し通すが、独りになったときには、すさまじい寂寥感にさいなまれます。

かのナポレオンは、腹にできたタムシがかゆくて、独りになると、子供のように泣きべそをかき、従卒が「これが英雄か」としばしば怪しむほどの狂態を示すこともあったといいます。そこから「召使いの前に英雄はない」という箴言まで生まれました。

かつて岡野喜一郎が駿河銀行の頭取になったとき、ルーズベルトだったか、アメリカの大統領になって、ホワイトハウスの前に立ち、「ここより中は孤独の部屋だ」といった有名な話を口にして、「いよいよ、これから、頭取として厳しい孤独にさらされるわけだネ」といった。すると、さる友人が「トップが孤独だということは、はじめからわかっていること。もし、孤独を恐れるなら、トップの座につかねばいいのだ」ときっぱりいいきったそうです。

これくらいのことをいえる側近がいれば、どれだけ心強いことでしょう。