もちろん、あとで検索すればいいといっても、最初にどんな情報が目の前を流れていったかを把握しておかなければなりません。メールに関しては、重要度によって星印をつけ、時間のあるときに処理をするという対処が現実的でしょう。

その意味で正反対のやり方をしているのが、日本で優秀とされてきたホワイトカラーの人たちです。受け取った情報を漏らさず記録し、分類したうえで、後日の意思決定に備えて保存する。学生時代まじめに板書の転記に励んできた人の行動様式だと思いますが、情報量が激増した一方、検索技術が進歩した時代にあっては、それだけでは付加価値を生むことはできません。

(左)メール画面。右隅に「TO DOリスト」が表示されている。(右)石黒氏が愛用するアップルのノートPCとスマートフォン。手書きのメモなどをもとに、TO DOリストや予定を入力する。

ビジネスパーソンにとって今後ますます大事になるのは、事実の正確な記憶ではなく、全体の概念を素早く把握し、そのうえで自分が次に何をやるかを考えることだからです。

日本のホワイトカラーの多くは、このことを本当には理解していないのかもしれません。日本人はクリエイティビティが低いといわれますが、その一因はこんなところにもありそうです。

簡素化しはじめたメールの作法

増え続ける情報量にどう対処したらいいかは、私たち現代人に突き付けられた課題です。たとえばメールのやり取りに関しては、次のような形で簡素化が進んでいます。

きっかけはSNSのラインやフェイスブックの登場です。ラインやフェイスブックでは、同じ画面に参加者の「発言」が次々と流れていくチャット機能が使えます。

ふつうのメールとは違って、題名がいらず、宛先を入力する手間もなく、それぞれの発言が画面上に重なっていきます。相手の発言と少し前の自分の発言が同じ画面で確認できるので、やり取りの内容が把握しやすく、1回あたりの文字量がメールよりも圧倒的に少ないという利点があります。

これまでは手紙の形式を踏襲して、宛名を書き、堅苦しい挨拶を入れてから本題に入るというのがメールの作法でした。しかし、チャット機能によるスピーディなやり取りに慣れてしまうと、そうした形式が無駄に思えるのか、チャット風の簡略化したメールを送る人が増えてきたように思います。

また、複数の人がチャットに参加する場合は、読んでも返信しない「既読スルー」でもいいわけです。最近はメールを受け取っても、既読スルーにする人も増えています。

従来のメールの作法にしても、法律で定められていたわけではなく、自然に醸成された文化のようなものでした。その文化が環境の変化によって変わるのだとしたら、それに合わせた対応をすればいいのです。メールの作法が簡素化されれば、生産性も上がるでしょう。

私の実感では、日本人は相手にどう思われるかを気にしながら文章をつづるので、同じことを伝えるのにアメリカ人の2倍以上の時間を使っています。その意味で、日本では特に簡素化のメリットが大きいと思います。

ネットイヤーグループ社長 石黒不二代
名古屋大学経済学部卒、米スタンフォード大学MBA。ブラザー工業で海外向けマーケティングに従事したのち、スワロフスキー・ジャパンの新規事業担当マネジャーなどを経て、1998年に米ネットイヤーグループのMBO(経営陣による自社買収)に参画、2000年から現職。
 
(構成=山口雅之 撮影=永井 浩)
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