蔵人の正社員化で2000人の応募が殺到

山本氏が開発し、代表銘柄となっている清酒「紀土」。

昨年「酒-1グランプリ」で優勝した「紀土(きっど)」も、初めてつくったときは「まあまあ」の酒でした。でも、蔵人のメンツも立ててあげたかったので、取引先には「まだまだの酒ですが、これから頑張りますから、一緒に銘酒に育ててください」とお願いしました。「紀州」と「風土」で紀土と名付けたお酒でしたが、これからの成長の意味も込めた「kid(子ども)」をかけ、その後は取引先に宣言したとおり、どんどんブラッシュアップし美味しくなっていったのです。

平和酒造でさまざまな改革を進めるうえでよかったのが、父の時代に業界を先駆けて始めた蔵人の正社員化でした。

かつては蔵人、杜氏は半年の季節雇用が当たり前でした。仕込みは10~11月に始まり、翌年3~4月で終わります。ただ、和歌山の蔵だったことが幸運でした。夏場は梅酒づくりができたので、蔵人の通年雇用が可能だったのです。

蔵人の正社員化の利点は、日本酒を仕込んだ後の管理を任せられることや、販売後に取引先からの評判を聞けることです。季節雇用の時代は、蔵人がいなくなった後の管理を残った数少ない従業員だけでやらなければいけませんでしたし、仕込みが終われば帰参する蔵人がお客様からの反応を気にすることもありませんでした。

現在、当社は営業スタッフを設けず、蔵人がその役目を担っています。蔵人にとって自分たちがつくったお酒を美味しそうに飲んでいるお客様を見られるのは最高のご褒美ですし、お酒の感想を聞けるのですぐに自分たちの仕事にフィードバックできます。

蔵人の正社員化によって会社との一体感が高まり、またマーケティングの力も強くなったのです。

蔵人を正社員化し、職場環境をよくしたり、モチベーションを高めたりすることは大切でしたが、私は志をともにできる仲間もほしいと思っていました。そこで就活サイトをつかって全国の大学生に向けて求人を出しました。そのときは蔵元の求人がほとんどなかったこともあって2000人近い応募があり、驚くやらうれしいやら。

本当に優秀な学生が集まり、内定を出すときは、それこそ「一緒にいい酒づくりをしよう」「日本酒業界を変革しよう」とがっちり握手したほどで、これで平和酒造も安泰だと思いました。ところが、入社してしばらくするとその新人たちが次々と辞めてしまう。日本酒が好きで入ってきた人たちが「もう酒づくりは嫌だ」「日本酒なんて見たくもない」と言って退社してしまうのです。何かとんでもないことをしてしまったのではないかと悩みました。