お金をかけなくてもわが子をグローバルエリートにできる

彼らが異口同音に留学で得た財産と語ったのは、「多様性への理解」。つまり、こういうことだ。

「自分の中の当たり前がどんどん崩されていきました。ここでの生活で、どんなことがあっても驚かない寛容性が養われたと思っています。それがいまの自分をつくったのは間違いありません」(牧浦さん)

「みんなと違っていい。人と違う感性や視点を持っていることが、世界を革新する力になるんです」(脇田さん)

「この学校にきて、わかり合うことの難しさを知りました。立場が違えば、見える世界がまったく違います。まずは違いを認めること。そのことから相互理解が始まります」(角南さん)

答えは1つではない。世界にはいろんな視点や価値観があり、それを理解する上で「自分が正しい」と思い込むのは望ましくない。寛容性を持つことや相互理解することは一朝一夕にはいかず、粘り強さや精神的なタフさも求めらるが、今後生きていく上でそうしたスキルを身につけることがとても重要。海外に出てそんな学びを得たと、彼らは口をそろえるのだ。

さらに面白いのが、同特集の別企画で、ドイツ、フランス、フィンランドの大使館員に「わが子にどんな力を身に付けてほしいか」と取材したところ、全員が「多様性への理解力がある子に育てたい」と語った。取材する先々で「耳タコだな」と思うくらい出てくる「多様性」という言葉。でも、これが近い将来、さらにグローバル化するであろう世界(日本含む)で我が子が働き、生きていくためには不可欠な能力なのではないか。取材を重ねれば重ねるほど、そう感じずにはいられなかった。

『プレジデントFamily2017春』号より。ドイツなど教育先進国の大使館員の参事官に聞く「海外のエリートの子育て法」。

とはいえ、今回取材した前出の牧浦さんや脇田さん、角南さんのように、欧米のトップ校に留学させるのは学力的にも経済的にも容易ではない。マネできない家庭がほとんどだろう。

しかし、諦めてはいけない。

彼らが学んだという「多様性」への理解力を高めることは、国内でもできなくはない。街中には外国人がたくさんいるし、ネットをつなげば、世界中とアクセスできる。“環境”は案外整っているのだ。

課題となるのは、まず親自身が心の壁を取り払い、自分とは言葉も価値観も文化も違う人と向き合えるのかということだ。似通った価値観の人間だけのコミュニティは居心地がいいが、そこにとどまらず、いろんなバックグラウンドを持つ人と誠実に向き合っていく。前出3人の若者に両親のことを聞くと、そんな視野の広さと懐の深さを感じた。

もし、教育資金が潤沢でなかったとして、そうした姿勢を親が子供に見せ続けることができたら、海外留学をさせるのと同等とまではいかなくても、それなりの教育的効果を期待できるかもしれない。

たとえば、いまの時代、子供のクラスメイトに数名の外国人がいるケースが増えている。その保護者は学校行事やPTA活動の内容がわからず、困っているかもしれないのでサポーターを買って出る。

別に外国人だけが多様なのではない。子供の学校や塾、クラブ活動以外のコミュニティに子供と一緒に参加してみる。また、テレビで信じられないニュースを聞いた時、「ありえない」で終わらせず、「なぜ、このようなことが起きるのか」「その人はなぜ、そういうことをするのか」と子供と話し合う。そんな習慣のある家庭は、だいぶ違うだろう。