なぜ、テナントを入れたのか?

イオンの前身であるジャスコには、もともと個人経営の岡田屋が、いろんな地元スーパーと一緒になって大きくなっていった合併の歴史があります。「大黒柱に車をつけよ」という家訓には、立地戦略という意味で、この合併も含んでいます。さらに言えば、社会や経済の動きに応じて革新をしていかなければいけないという意味もある。

(写真=Getty Images)

ただ、この「大黒柱に車をつけよ」の本当の教えとは、同じところで同じことをしていたのでは駄目だということなんです。「店は客のためにある」「会社は社会の機関である」。だからこそ、「先鞭を付けること」が大事になってきます。小嶋も岡田も2番は嫌い。自分のところが先じゃないといけないんです(笑)。

実際、モール型ショッピングセンターにテナントを入れたのは、おそらくイオンが初めてです。自分の店だけでなく、専門店を入れたり、地元の商店街にあったお店も入れたりして、一緒にショッピングセンターをつくりました。

ただ、そこにはもう一つの戦略が隠されています。それがB/Sという考え方です。その当時、一つのショッピングセンターをつくろうとすると、多額の投資が必要でした。ところがテナントの入店保証金があれば、初期投資は少なくて済む。だから、いち早く多数の店舗を出店できたのです。

もう一つ「上げに儲けるな、下げに儲けよ」という家訓があります。岡田屋はもともと呉服屋です。当時の呉服屋というのは、倉庫に商品をためておきました。もし大暴落したら大損が出る。そのとき商人なら現金を持って大暴落した産地へ行って、暴落した値段で買ってきて、それをまた売る。これが「下げで儲ける」ということです。

いわゆる商品回転ですが、実はそれこそ商売の原点なのです。経営というのは回転です。100万円を年6回ほど回すのか、年に10回ほど回すのかによって全然違う。一方、「上げに儲けるな」というのは、バブルのときのように上げ相場で儲けてはいけないということ。だからこそ、イオンは余分な不動産投資をせずに、本業に専念しましたし、「利益の正当性」を主張できるのです。

イオンには「平和」「人間」「地域」という3つの理念があります。とくに岡田は「地域」に貢献するということに対する愛情が非常に強かった。創業の地である四日市というのは、近江から来る街道と東海道から来る街道にある交通の要衝で、比較的自由な雰囲気なんです。

そんな四日市には古くから見競勘定がありました。それはおそらく松坂商人に由来するものです。松坂商人というのは、蒲生氏郷が連れてきた商人ですが、もともと蒲生氏郷は滋賀県の近江の日野というところの城主で、移封されて松坂へ来たんです。そのとき取り巻きの近江商人を連れてきた。だから、近江商人の「三方よし」の考え方も含め、非常に影響を受けているのでしょう。

小嶋は自分の人生の時間と会社での職業人生を分けていました。事業というのは、与えられたものです。会社の経営は80歳や90歳でできるものではないと考え、60歳で一線を退いています。小嶋はお金にも頓着しませんでした。寄付や助成金に対しては、パッと気前よく使う人でしたが、自分の生活では月20万円しか使わないと決めています。こうしたお金の使い方も松坂商人の考え方の影響を受けていると言えるのかもしれません。

▼岡田家家訓
・大黒柱に車をつけよ
・上げに儲けるな、下げに儲けよ
▼イオン基本理念
平和
人間
地域
▼7つの基本指針
・会社は社会の機関である
・仮に人でも、社会からの預かりもの
・経営者しかできないことを厳密にきちんと理解している
・企業と家業を厳密に区分している
・店は客のためにある
・人と共に成長する会社
・利益の正当性
(ジャーナリスト 國貞文隆=構成 堀 隆弘=撮影 Getty Images=写真)
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