このような状況で、資本主義システムを維持しながら、このシステムがもたらす災厄をできるだけ少なくする修正資本主義の道を模索することが唯一の現実的処方箋と筆者は考える。『資本論』によれば、マルクスは資本主義システムを維持するために必要な労働者の賃金水準は以下の3要素を満たさなくてはならないと考えた。ここでは賃金を月単位で考える。

第1は、家を借り(労働者には持ち家がないという前提で『資本論』の議論は展開されている)、食事を摂り、服を買い、少しだけレジャーをして、来月も働くエネルギーを蓄えるのに必要な費用だ。

第2は、家族と子どもを養い、次世代の労働力を再生産するメカニズムを維持するために必要とされる経費だ。

第3は、技術革新に伴い、労働者が新しい業務に携わることができるようになるための教育費用だ。

遺憾ながら、国税庁の発表でも、年収200万円以下の給与所得者の数が1000万人を超えた。深刻な事態だ。これでは、第1の要素を満たしているだけで、次世代の労働力の再生産、労働者の自己革新も難しいという状態だ。この状況を放置すると日本の資本主義システムが弱体化してしまう。

共産主義革命やイスラーム革命以外の発想で、日本の生き残りを図るための処方箋は一つしかない。富裕層が社会構造的に弱い立場に置かれ、自力では這い上がることができない人々を助けるために私財を提供することだ。富裕層でない普通のサラリーパーソンでも、できる範囲で再分配をするのだ。逆説的であるが、「資本主義はそう簡単に倒れない」という真理を『資本論』から読み取ることが、今日、マルクスを甦らせる最大の意義だ。

(佐藤 優=文)