Joseph Alois Schumpeter
-ヨーゼフ・A・シュンペーター(1883~1950)
ケインズと並ぶ20世紀前半の代表的経済学者の一人。1883年トリューシュで生まれる。第1次世界大戦直後、オーストリア政府の大蔵大臣を務め、32年以降は渡米してハーバード大学教授となった。計量経済学会の創立者。『理論経済学の本質と主要内容』『経済発展の理論』で世界的に有名になった。新機軸導入による「創造的破壊」が景気循環を生み出す源泉であるとした。
資本主義の将来を論じた3人の巨匠を挙げよと言われたら、マルクス、シュンペーター、ケインズと答える人が多いであろう。歴史的偶然はあるもので、マルクスが死んだ1883年にシュンペーターが生まれ、その同じ年に、後年の論敵となったケインズも生誕したのである。シュンペーターは、30代ですでに主著の3部作を書き終えていたという早熟の天才であるが、後には貨幣論でケインズに先を越され、1929年に始まった大恐慌の診断ではケインズ政策に対抗しうるような分析の枠組みを提供しえなかった。
しかし、現時点で見ると、かつてのケインズ政策はそのままでは効果が弱まり、むしろ弊害が大きいという見解が強まり、「ケインズ埋葬」というような書物まで現れるのに対して、シュンペーターを埋葬しようという人は少ない。それは、ケインズがもっぱら需要面に注目し、政策的には「短期」の問題に焦点を当てたのに対し、シュンペーターはイノベーションによる供給面に注目し、その創造的破壊による経済社会の「長期」の大転換を考察しているからで新たな「生産」「市場」「組織」の複層的な新結合によって生み出される創造的破壊こそが、経済危機を突破してゆく原動力となるからである。
以下、日本の現状を念頭において、それを3つの層から解明してみよう。
第1。日本ではごく「短期」の雇用対策が最重要視されているが、EUなどではそれを「長期」の雇用政策とリンクさせる「シュンペーター派のワークフェア」という政策思考が注目され、実行され始めている。「ワークフェア」(Workfare)とは、福祉国家で言うウエルフェアの「ウエル」を「ワーク」に変えた言葉で、働く福祉という単純な理解から始まったのであろうが、いまでは「国民国家後のシュンペーター派ワークフェア」という理論枠組みでの議論になっている。内容は、人々が新しい仕事を見出し、その仕事を効果的に遂行できるような教育訓練を行う供給面重視の労働政策を指している。そこにシュンペーターという名前がつくのは、たんなる技術教育ではなく、新たな市場の開拓や、ネットワーク型の組織のつくり方など、多層なイノベーションに対応しうる教育訓練を目指すからである。