「会社」と「仕事」は別と考える
わたしは最初に就職した出版取次大手の東京出版販売、通称東販(現トーハン)で、『新刊ニュース』という広報誌について、誌面を刷新し、無料から有料にするという抜本的な改革を行い、発行部数を5000部から13万部に伸ばしました。
20代のときに思いついた『新刊ニュース』の誌面刷新と、80代に入って発案した「金の食パン」は、まったく同じ「未来を起点にした発想」から生まれたものでした。経営者時代、わたしは社員たちにも、「仮説」を立てて、挑戦することを求めてきました。仮説とは、まさに、跳ぶ発想のなかから浮かびあがるものだからです。
わたしが60年間、仕事を続けることができた2つ目の理由として、わたし自身のなかで、「会社」と「仕事」とが、必ずしも一体化していなかったこともあるかもしれません。会社という組織のなかでは、わたしはトーハンでの平社員から始まり、30歳で総合スーパーのヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)へ転職してからは、係長、課長、部長、役員、社長、会長と肩書きは変わっていきました。
セブン-イレブン・ジャパンについては1978年から社長(92年から会長)、イトーヨーカ堂については92年から社長(2003年から会長)を務めてきました。ただ、その都度、自分自身では組織のなかで「出世した」とか「荷が重くなった」といった意識は特にありませんでした。リタイア後に「荷が軽くなったでしょう」と聞かれても、まったくそんな感じがないのはそのためです。
もし、わたしのなかで会社と仕事が一体化し、会社の都合で仕事を行っていたら、経営はマンネリ化し、これほど長期にわたって経営トップの立場にいることはできなかったでしょう。
しかし、仕事への向き合い方は20代のころから、一貫して同じで変わることはありませんでした。