未来に向かって敷かれたレールはない
わたしは2016年5月26日、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)の職を辞し、60年にわたる現役生活にいったんピリオドを打ちました。
これは誰かから求められたものではなく、自らの意志と決断によって、それまでの経営者としての自分から、自由な立場としての新しい自分へと踏み出したものでした。
未来に向かって敷かれたレールはない。道は自分でつくるものである。仕事においても、人生においても、わたしはこれまでそう信じて、仕事を続け、生きてきました。レールとは、ふと振り返ったときに、自分が歩んできた結果として敷かれているものです。
わたしも振り返ると、自分の歩んできたレールの上には、日本初の本格的なコンビニエンスストアチェーンであるセブン-イレブンの創業、コンビニでのお弁当やおにぎりの販売、経営破たんした本家本元のアメリカのサウスランド社(現在は完全子会社のセブン-イレブン・インク)の再建、過去に例のない流通業による自前のセブン銀行の設立……等々、多くのことが年表のように刻まれています。
しかし、目の前にはレールは敷かれていない。だから、どんな方向にも新しく踏み出すこともできれば、自分を変えることもできる。それは、現役生活にいったんピリオドを打ったわたしでも同じなのです。
忘れてならないのは、過去のレールの延長線上に自分でレールを敷いてはならないということです。
レールが敷かれていない未来に向かって踏み出すために必要なのは、「発想する力」です。いまはない状態から、新しいものを発想する力。いわば、「無」から「有」を生む発想力です。