「バリューチェーン」時代は終焉へ
従来の産業は、バリューチェーン構造で捉えるのが一般的でした。バリューチェーンとは、企画・開発、素材・部品から製造、配送、販売までの、企業間あるいは業界間をまたがる付加価値連鎖のことです。例えば自動車産業では、完成車メーカーが企画・開発と製造を担い、系列企業が部品製造を請け負い、系列のディーラーが販売します。この場合、最終消費者が接するのは最終プレーヤーであるディーラーだけであり、バリューチェーンの途中段階における部品などを選択することはできません。選択はディーラーが提供するオプションの範囲に限定されます。
それに対して、レイヤー構造化した産業では、最終消費者が各レイヤーの製品を直接選択して組み合わせることができます。その代表例が電子書籍産業です。同産業は「通信ネットワーク」「ハード・OS」「アプリ」「コンテンツストア」「電子コンテンツ」という多層レイヤーから成り立ち、消費者が各レイヤーについて直接選択できます。例えば、Kindleで電子書籍を読む場合、ハードはKindleの端末だけでなく、iPadやAndroid端末でも読めますし、通信ネットワークも携帯キャリアやWi-Fiなどから自由に選択できます。
レイヤー構造化の進展は、(1)階層の数が増えること、(2)各階層の独立性が高まること、(3)階層の組み合わせの自由度が増すこと、という3つの要素で定義できます。その結果、消費者から見た選択肢が増えます。多くの場合、プラットフォーム事業者が出現し、その影響力が拡大します。プラットフォームとは、レイヤー構造の中で、製品・サービスの多様性の土台となるレイヤーのことです。プラットフォームは一つとは限りません。電子書籍でいえば、Kindleストアなどのコンテンツ販売レイヤーや、AndroidやiOSなどのOSレイヤーがプラットフォームに当たります。
レイヤー構造化は、さまざまな業界で進んでいます。携帯電話では、SIMフリーによって端末とネットワークの組み合わせを自由に選べるようになりました。銀行業界では、コンビニがATMに参入し、消費者のATM選択がより自由になりました。自動車業界でも、かつては純正だったナビがスマホやアプリでも可能になるなど、レイヤー構造化が進みつつあります。