一方、羽田との棲み分けがなし崩しになって焦ったのが成田国際空港だ。国内便を飛ばしたり、LCC(格安航空会社)を呼び込んで新規需要の開拓に努める一方で、第3滑走路の新設やカーフュー時間の短縮などの機能強化策を打ち出しているが、アクセスの悪さは如何ともしがたい。実は成田国際空港以前に東京湾に人工島の飛行場をつくる計画があった。アクアラインの海ほたるPA辺りが予定地で、海上なら騒音問題も大きくならないし、東京、横浜、千葉方面からほとんど等距離というのが大きなメリットだった。ところが、どこかの総研が天秤にかけると成田のほうが50億円安上がりにできるというレポートを書いたおかげで、新空港は成田に決まった。しかも計画の持っていき方が悪かったために、世界でも希に見る激烈な空港建設反対運動が起きた。結果、膨大な時間と莫大な補償コストをかけてつくった成田国際空港の相対的価値は今や低下する一方だ。旧運輸省がしっかりしていれば、今頃は東京湾上にチャンギ国際空港や仁川国際空港にも負けない見事な国際空港ができていただろう。

関西の空港状況もよく似ている。2滑走路のため発着数に限界があったのと騒音問題を抱えていた伊丹空港(大阪国際空港)に代わる新空港建設計画が持ち上がった当初、建設予定地は南港沖、現在のUSJの外側辺りだった。大阪、神戸の都心からは近いし、すでに高速道路も通っている。グッドアイデアだったが、自前で空港を持ちたい神戸がこれに強く反対。結局、ずっと南に下らざるをえなくなり、泉南沖を1兆5000億円かけて埋め立てて現在の関西国際空港をつくった。しかし地盤調査が不十分だったせいで第1滑走路の完成直後から地盤地下が発覚してしまう。横風対策でT字にする予定だった2本目の滑走路を平行滑走路にするなど、沈降対策でさらに1兆3000億円。新空港の損益分岐点は未来永劫やってこない。

それだけの巨費を投じておきながら、新空港が完成すると今度は、「関空は遠すぎる」と廃止が決まっていた伊丹空港の存続運動が巻き起こった。工事欲しさに新空港が必要だと言っていた関西の財界人まで乗る始末である。結局、伊丹は存続し、神戸空港もできて、関空は目的不明になってしまった。一応、「国内線は伊丹、国際線は関空」という仕分けはあるが、離れているため3時間以上の乗り換え時間が必要でハブとしてはまったく機能しない。したがって関空から飛んでいる海外路線は非常に少ない。西日本に住む人は長距離便の場合、成田か仁川で乗り換えるケースが圧倒的に多い。

今になって関空の利用者数が急増しているのは着陸料を大幅に下げてLCCを呼び込んだからで、いわゆるインバウンド需要である。自前の投資回収を諦めて、空港運営を民間(オリックスとフランス空港大手ヴァンシ・エアポートの企業連合)に買い取ってもらって何とか格好がついたのだ。