日銀は、物価目標を達成できなかった理由として、「14年の夏以降の原油安」「消費税率引き上げによる需要の弱さ」「新興国経済をはじめとする世界経済の弱さ」の3点を挙げている。尾河氏の言う「世界的な逆風」とはこのことだ。世間的には結果だけを見た批判も多いが、お金のプロの目から見ると、評価は違ってくるようだ。

「今回の転換の主な柱は、市場に流すお金の『量』から『金利』への軸足のシフト。具体的には、『イールドカーブ・コントロール』として10年国債金利水準をゼロ程度に操作すること、そして『オーバーシュート型コミットメント』として金融緩和を継続すること(目標に近づいても緩和をすぐにはやめないという意味)の2点です。

今回の転換があまりポジティブに受け止められていないのは、日銀の説明不足によるものでしょう。実際、長期金利には様々な要素が関係してくるため、日銀が完全にコントロールすることは難しい。それをどのようにして『ゼロ程度』に操作するのか、マイナス幅が広がったときにどうするのか、この部分の説明が足りていないのです。日銀自体も、有効な手法が見つかっていないのかもしれません。しかし、これまでは会合のたびに『あといくら追加緩和があるのか』という部分にばかり注目が集まり、期待と失望とで市場が混乱してきました。そういった不要ないたちごっこがなくなるだけでも、大きなメリットだと思います」(尾河氏)

先進国の中央銀行が長期金利を操作目標にするのは極めて異例のことだ。金利は本来、投資家の売り買いの需要に応じて決まる。それをコントロールすることができるのか。また、日銀が強く操作しようとした場合にどんな不具合が生じるのか、今後はその点に注意する必要があるだろう。

「この発表を受けて、直後はドル円相場も円安に傾きましたが、その後は円高に反転しました。目下、市場参加者たちが最大の関心を寄せるのは11月の米大統領選でしょう。立候補時は泡沫候補と見なされていたトランプ氏が、もしかしたら大統領になるかもしれない。本来なら、日米の金利格差を受けて円安に動くところですが、トランプ大統領誕生の可能性が捨てきれない段階では、誰もリスクをとれない。ここでも、想定外のことが大きく影響しているのです」(尾河氏)

想定外は米大統領選に限らない。ドイツでも、メルケル首相の地元選挙区で与党が敗れるという「想定外」が起きている。日本経済が安定するのは、まだ先のことになりそうだ。

尾河眞樹
米ファースト・シカゴ銀行などで為替ディーラーとして活躍。その後はソニーやシティバンク銀行で為替市場などに従事。2016年8月より現職。
(時事通信フォト=写真)
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