専門家会議の提言は単なる「参考意見」だ!

豊洲問題に議論を戻すと、まず世間が大前提としている専門家会議の提言は、都庁という役所の中でどういう位置付けなのかを明確にしなければならない。

本来、土壌汚染対策を考えるのは、都庁の技術系の職員だ。彼らは技術のプロである。ところが豊洲の土壌は、食の安全・安心にかかわる中央卸売市場が建つ場所だし、この土壌汚染問題は都民が非常に関心を持っているところでもあったので、当時の石原慎太郎知事が、外部有識者からなる専門家会議の設置を決めた。都庁職員だけで考えるな、ということである。

都庁の技術職員は、当初、土壌汚染対策法とういう法令の範囲内での対策を考えていた。ところが専門家会議から、法令で求められている以上の、かなりの「上乗せ対策」の提言を受けたという経過である。

さあ、ここで問題なのは、この専門家会議の位置付けである。この専門家会議の提言がそのまま都庁の方針になるというなら、条例できちんとそのように位置付けられていなければならない。もし、条例で位置付けがないのであれば、専門家会議の提言を受けてもそれがそのまま都庁の方針になるのではなく、提言を参考に都庁が責任をもってしっかりと決定をしなければならない。条例に基づく専門家会議でなければ、最終決定権と責任は都庁にある。

世間は専門家会議のような有識者会議を絶対視しているが、現実はそのようなものではない。今回の専門家会議も土壌汚染対策についてはプロであろうが、建築のプロでないことは明らかになっているし、予算の責任も負わない。特に予算の責任は重大である。予算に責任を負わなければ、そこでの主張・提言はカネのことを全く考えない青天井になってしまう。

今回の専門家会議も予算の責任を負っていないので、現実的な合理的な対策というよりも、ゼロリスクを目指した感がある。ゆえに有識者会議に独立の意思決定をさせる場合には、条例できっちりとルールを定めておかなければならない。条例で定めるとなると、メンバーから権限、責任の範囲までかなり精緻に議論されてルール化される。

通常よくあるのは、予算措置を伴わない制度をつくる際に、専門家に結論を出してもらう場合である。審議会というのが典型例だ。大阪市のヘイトスピーチ条例も、予算を伴うものではないので、有識者会議の皆さんに制度設計をしてもらった。もちろんそのときの有識者会議は条例設置の審議会だ。

一方、予算措置を伴うものであれば、通常は参考意見をもらうまでとする。例えば大阪市は近代美術館を建設することを決定したが、その際に外部有識者から色々と意見をもらった。しかしそれに拘束されると、予算の問題が出てくるので、最終決定は市役所でやることになっている。また大阪市内最後の一等地と言われている「うめきた2期」開発についても、有識者に色々と意見をもらっているが、これも莫大な予算が必要になるプロジェクトなので、最終決定は意思決定機関である「うめきた街づくり協議会」で決定することにしている。

僕は組織の意思決定に非常にこだわりを持っていたので、僕の組織マネジメントの要として、有識者会議での検討と、それを受けての役所の意思決定を相当精緻にルール化した。予算を伴う提言をもらう場合には、有識者会議に提言をもらった後に、関係各所が集まる最高意思決定機関において予算を含めて再度行政的に議論した上で、役所組織が責任をもって意思決定するというルールにした。この場合、有識者会議はあくまでも参考意見を述べる機関であり、条例による根拠は必要ではない。

仮に、有識者会議に予算を伴う提言をもらい、その提言に行政を拘束する力を与える場合、つまり有識者会議に決定権を与える場合には、条例によって相当精緻なルール化を図る必要が出てくる。今回の豊洲の土壌汚染対策に関する専門家会議が、最たる例だ。

もし今回の専門家会議の提言に行政を拘束する力を持たせるならば、しっかりとした条例の根拠が必要となるが、どうもそのような条例はなさそうである。そうなるとこの専門家会議の提言はあくまでも「参考意見」であり、都庁はその提言を受けてしっかりと行政的に議論した上で都庁として意思決定をしなければならない。最終的な決定権と責任は都庁にあると考えるべきだ。

そうすると今回の豊洲問題については、都庁の対外的な説明不備や、管理職の無責任な決裁は問題になるにせよ、都庁が『勝手に専門家会議の提言計画を変更した』という単純な評価にはならなくなる。

都庁は法令上の土壌汚染対策は行っている。それに加えて、専門家会議の『過剰な上乗せ提言』をどれだけ採り入れるべきなのかの話となり、その決定権と責任は都庁にあることになる。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.26のダイジェスト版です。

(撮影=市来朋久)
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