女装してまで子孫を残そうなんて、こいつら凄い!
十数年前、科学情報番組「たけしの万物創世紀」でサケの繁殖戦略が紹介された。そのときビートたけしの発した一言が本書の生まれるきっかけとなった。番組に登場するCGキャラ“目黒権之助博士”の声を担当したのが著者だ。
「サケの世界でも大きくて強い雄が雌を独占するのですが、弱い雄は負けてばかりかというと違います。雌と同じ体色になって、いわば“女装”して強い雄の目をくらまして雌が産卵する瞬間に近づいて放精するのです」
その映像を見たビートたけしが「凄い!」と感動してくれたエピソードを仲の良い編集者に話したら、「それ、自己啓発本になるかも!」と、一気に出版に至った。
ネイチャーフォトグラファーという肩書を持つが、自身を“生き物屋”と称する。水産学科で学び、将来は研究の道に進むかどうか悩んでいた時期に生物写真家の桜井淳史氏に師事し、2年間のアシスタント修業を経て25歳で独立。以後は図鑑などで自然をテーマとする写真を発表してきた。特に淡水に棲む生き物に力を入れる。
「海と違って日本の水辺って狭い水域に多種多様な生き物がいて、互いを利用し合いながらでないと生きられない関係にあるところが面白い」
たとえばムギツクというコイ科の小魚は、一対一では決して勝てない強い大きな魚に集団で襲いかかり、混乱に乗じて彼らの卵を食べ、代わりに自分たちの卵を産みつける。子を失った大きな魚は自らの習性に従い、そのままムギツクの卵を守るという。
「ここで面白いのは大きな魚を襲い、追われる刺激がムギツクの産卵の引き金となっていること。水槽の中で産卵することはないのです」
他種と生存競争を戦うことでムギツクは種の保存を勝ち取っているのだ。
弱肉強食という言葉は、自然界の厳しい掟を表すものと思っていたが、本書を読むと目からウロコ。弱者こそ旺盛な生存能力を発揮していることがわかり勇気づけられる。
「新人は会社でいろんな逆境にさらされると思います。でもめげることはありません。メダカなんて1日数粒しか卵を産まなくても生き残ってきました。コツコツ確実にやっていけば、誰でもチャンスがあることを自然は教えてくれています」