かつて、満州国の首都・新京(現中国の長春)には日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアから厳しい選抜を勝ち抜いた若者が集った最高学府があった。「建国大学」である。著者は、そこに学んだスーパーエリートたちの夢と挫折を追った。
「小さな物語を積み重ねることで、大きな時代を描き出せないかと私は思っています。一人ひとりの学生の取材を通して、建国大学の全体像が浮き彫りになってきます。学内では、五民族の学生が寝食をともにしていました。彼らには、戦時下であるにもかかわらず言論の自由が付与され、毎晩のように民族協和について議論を戦わせていたのです」
三浦氏は、当時と現代のエリートとの違いを、使命感の大きさだとする。なにしろ、全員が若くして満州国の運営を任されたのだ。青春とはいえ、ゲームもバカンスもなく、お金を稼ぐことも考えていない。持てる知力のすべてを国づくりに向けた。
だが、日本の敗戦で、建国大学は7年で歴史の闇に消える。やがて、祖国へと戻った卒業生たちの多くは、日本帝国主義の協力者という負の履歴を背負い、苛酷な戦後を生きざるをえなかった。
「けれど、誰に尋ねても、後悔していないと答えます。青年らしい冒険心で満州へ渡り、仲間との友情を育んだことを誇りに思っています。私はビジネスマンもそうあるべきだと思います。海外には多くの出会いが待っています」
海外に飛び出せば傷つくこともある。しかし、ある建国大学出身者は「衝突を恐れるな。知ることは傷つくことだ。傷つくことは知ることだ」と語っている。それは忘れられない財産になるからだ。
(永井 浩=撮影)