消費社会研究家、マーケティング・アナリスト 三浦展
経済評論家、公認会計士 勝間和代
【三浦】勝間さんと対談するにあたってちょっと考えたんですが、たとえば、「今、あなたが仕事をするうえで必要な能力はいつ形成されましたか?」と聞かれたら、僕にとって、その5割は大学だと思うんです。それなりに社会学の勉強をしたので、いちおう、社会学系の全科目の成績はオールA(笑)。他は一切関心がないので全部Bだったけれど、やっぱり大学で学んだことが基礎になっている。見田宗介(*6)さんが東大の社会学講座で書いた『社会意識論』という本が、僕のベースなんですよ。
【勝間】それがマーケティングの仕事をするうえでも基礎になっているわけですね。
【三浦】この本によって、僕の中には、社会の下部構造(*7)、べースが変われば、人間の意識も変わるという論理が叩き込まれている。だから、僕は個人の意識なんていうのはあんまり信用しない。たとえば、「私はバナナが好きだ」というのは、子どものころはバナナが高くて、風邪を引いたときしかバナナを食べられなかったという記憶があるからで、よく考えたらバナナをうまいなと思ったことはないわけ。つまり、バナナが好きだというのも、個人的な意識じゃなくて、社会的なものだと。すごく俗な言い方をすれば、そうなるんです。
社会現象やトレンドをとらえる際も表層だけが動いているのではなく、底流で何かが変わっているからだと考える。パルコで「アクロス(*8)」のように最も表層的な流行調査をする仕事でも、僕はそういう底流分析的な見方でやったし、それがあの雑誌をグレードアップさせたと思う。でも、マーケティングの現場でもあまりそういう見方をする人は少ないんですよね。経営コンサルタントは人口統計をよく見てないし、家計調査(*9)もあんまり見てない。
【勝間】私はマッキンゼーにいたころから、家計調査はよく見ていましたよ。だいたい33万円ぐらいの収入があれば、何にいくら使って、ここ何十年のトレンドでどう変化しているのかと。家計調査を見ていないと、市場の大きさがわからないので。
【三浦】そうそう。僕も家計調査と国勢調査(*10)を見たら、雑誌の企画が5本ひらめきましたよ。でも、マーケッターでもコンサルタントでも、国勢調査をさわったことがない人がいっぱいいるんだよね。
【勝間】もったいないですよね。やはりセグメント別の人口動態(*11)を見ることが基本ですからね。