FinTechへの期待は過剰なのか?
ITの世界に「バズワード」という言葉がある。「Web2.0」や「ユビキタス」や「IoT」、近年では「DevOps」「オムニチャネル」「オンプレミス」「BYOD」などがバズワードに該当する。
実際、一連のフィンテックブームに対して、「フィンテックとして語られている技術のなかには、元来、機関投資家が使っていたものが多く、それらが一般消費者向けに降りてきたに過ぎない」と、冷ややかな見方をする専門家もいる。
はたしてフィンテックはバズワードなのだろうか?
すでにフィンテックは米国では一大潮流となっていて、既存の大手金融機関も無視できないところまで成長している。また、英国でも国を挙げてフィンテックの支援策が打ち出されている。英国政府は2010年から「テックシティ構想」の下もとで、ベンチャー企業の育成を図っているが、英・大蔵省は2014年8月、フィンテックに特化した支援策を打ち出した。
その際にオズボーン財務相自らが業界団体の設立大会に登壇して支援策を公表した。内容は次のようなものだった。
「現在、英国のフィンテック業界は企業数が1000社以上となっており、推計では年間200億ポンド(3兆800億円)の収入。業界の従業員数は4.4万人でニューヨークやシリコンバレーを凌駕する」
バズワードが社会現象を表すものである限り、マスメディアの持つ影響は大きい。特にIT業界において、メディアが実体以上に盛り上げ、取り上げることでバブルを煽ることになることは、1990年~2000年のドットコム・バブルでも同様の事例がある。
フィンテックでもそうした傾向は出始めている。
2016年3月24日付の日経ビジネスオンラインに「ショック! フィンテック大手が取材直後に破綻」(蛯谷敏氏)という記事がある。同記者は、Powa Technologiesというロンドンで創業したフィンテック・ベンチャー企業を2016年1月に取材したが、その直後の2月16日に、英フィナンシャルタイムズが、同社が経営危機にあることを報じたのだ。
野村資本市場研究所の淵田康之研究理事は、『月刊資本市場』2016年3月号で次のように言及している。
「ITバブルの際も社名にドットコムと付いただけで株価が上がるような状況が生じたが、フィンテックも今、似たような状況にあるのかも知れない。ただ、ITバブルが弾けると多くのドットコム企業は姿を消したが、生き残ったAmazonやGoogle、PayPalなどの企業は経済の仕組みを変える立役者となった。同様に今後、フィンテックの過剰な期待が修正される局面もあるかも知れないが、テクノロジーが進化を続け、顧客がよりよい体験を求め続けるという点は今後も変わるものではない」
フィンテックには、確実なテクノロジーの進化と、顧客がよい体験を求め続けるというニーズが存在している。形が変わっていくことはあるだろうが、金融とITの相乗はユーザーの利便性向上と、産業構造の進化の可能性を大いに秘めている。
※本連載は『まるわかり FinTechの教科書』(丸山隆平著)の内容に加筆修正を加えたものです。
1948年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。1970年代、日刊工業新聞社で第一線の経済・産業記者として活躍。企業経営問題、情報通信、コンピュータ産業、流通、ベンチャービジネスなどを担当。現在、金融タイムス記者として活動中。著書に『AI産業最前線』(共著・ダイヤモンド社)などがある。