金融庁が進めてきた「地銀再編」に、公正取引委員会が「待った」をかける事態になっている。公取委は、長崎県で進んでいたふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合について、7割に上る統合後のシェアを問題視し、統合申請の承認を先送りしている。これに対し金融庁は反発を強めている。一体なにが起きているのか――。

企業数の減少と生産人口の減少

日本の企業数は1980年の約550万社から2015年には約400万社へと激減している。また生産年齢人口(15歳~64歳)は2015年の7592万人から2030年には6773万人、2060年には4418万人にまで減少すると見込まれている。このような構造的な要因から、地方銀行の貸出は今後大幅な減少が予想されていると金融庁の有識者会議「金融仲介の改善に向けた検討会議」がまとめた「地域金融の課題と競争のあり方」の報告書は指摘する。

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資金需要の減少や低金利が続く経営環境の下、多くの地銀は貸出残高を増加させることで貸出金利の低下の影響を相殺しようとしている。特に県境を超えた貸し出しを積極化させ、多くは県外の金融機関との競争に直面している。さらに、政府系金融機関との競争にも晒されている。

金融庁が全国の中小企業に実施したアンケート調査では、政府系金融機関と取引している企業は全体の約5割に上る。また、政府系金融機関との取引を選択した理由については、「政府系金融機関の方が借入条件が良かったから」と約6割の中小企業がこの金融庁のアンケート調査に答えている。一方、「民間金融機関では支援してくれなかったから」と回答した企業は約1割にとどまっており、民間金融機関と政府系金融機関との間で金利競争が行われている様子がうかがえるという。

さらにフィンテックなどIT技術の進展もある。PCやスマホで銀行取引が行えるようになり、銀行の店舗に出かける必要がなくなり、県外の金融機関の利用が進んでいる。

過半数の地銀が赤字の現実

多くの地銀は貸出利鞘の縮小を貸出残高の増加で補おうとしているが、資金利益は継続的に減少しており、2016年度の地銀106行の決算では過半数の54行が本業(貸出・手数料ビジネス)で赤字となっている。

このため、不採算店舗の削減などのリストラ・合理化が進んでいる。

報告書では地銀の将来について「これまでのように貸出額を増加させようと金利競争を継続しても、地域の人口や企業数が減少する中において全体として金融機関の収益性の悪化は避けられない」とする。

このため、金融庁は地域金融機関に対し、「企業の本業支援など、中小企業の経営改善に資する取組を奨励している。しかしながら、顧客本位の業務運営を行い、取引先企業の生産性向上に貢献するような取組は、いずれもそのための人材育成や収益化に時間と費用を要する」「時間とコストをかけ、中小企業の経営改善に取り組んでも、当該企業の経営が改善した後に地元のライバル金融機関により低金利の攻勢をかけられることが多く、取引先を切り替える企業も存在する」と指摘する。

低金利競争から抜け出せず、本格的に中小企業の経営改善に取り組めないと主張する地域金融機関が多いわけだ。