泥沼と化した九州の地銀再編

国内屈指の有力地方銀行、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が苦しみ、もがく。昨年2月、長崎県内を地盤とする十八銀行との統合計画を発表したものの、公正取引委員会から承認が得られず、事態は泥沼化する。7月にはとうとう「無期限延期」の表明を余儀なくされた。地銀の雄のつまずきは、金融庁が主導する地銀再編の流れにも大きな影を落とす。

統合無期限延期を説明するFFG柴戸社長(左)と十八銀森頭取。(時事通信フォト=写真)

FFGにとって、今回の統合計画は発足(2007年)以来の長崎戦略の集大成だった。グループ傘下の親和銀行は県北部に根を張る一方、十八銀は県南部を押さえる。分割統治状態にあった長崎県で、親和銀はFFGの資本力をバックに攻勢をかけた。「いわば兵糧攻めを仕掛け、十八銀側が泣きついてくるのを待っていた」。九州のある地銀幹部は語る。狙い通り、十八銀は白旗を掲げ、統合交渉が始まった。

当初から、統合後の県内融資シェアの高さが懸念材料だった。「競争的な市場環境の維持」を掲げる公取委が原則を曲げるとは考えにくい。それでも強行したのは、広域再編を強く後押しする金融庁の意向を踏まえたものだ。

金融庁にとって今回の計画の持つ意味は大きい。従来型の合併は不良債権処理に端を発し、経営難に陥った中小地銀を救済する色彩が強かった。FFGも福岡銀行が経営難の2行を引き受けて発足したものだ。しかし、近年は九州FG(鹿児島・肥後両銀行)、コンコルディアFG(横浜・東日本両銀行)といった健全行同士の統合など新たな合併形態が生まれる。人口減少による国内経済縮小が不可避ななか、金融庁は金融機関の中長期的な存続を視野に、整理・統合を進める。今回のFFGと十八銀の統合構想は、この流れを加速させる狙いがあった。

FFGと十八銀にとっての誤算は、金融庁の思惑を、公取委がまったく“忖度”しなかったことだろう。ある財務省OBは「一緒に汗をかいてくれるとでも思っていたのかもしれないが、大きな思い違いだ。霞が関の空気を何もわかっていない」と断じる。異例の3期目に入った金融庁の森信親長官は、地銀の持続可能性に疑義を示し、統合に積極的だ。8月3日の内閣改造でともに残留した麻生太郎財務相や菅義偉官房長官とも近く、政治の威光を背景に、改革を意欲的に進める。しかし「良くも悪くも理念先行型で、根回しをする人ではない」(同OB)といい、そもそも助け船は望むべくもなかった。