「顕示的消費」が 貯蓄率低下の元凶
国全体が豊かになって、仮に戦後の日本のように平均所得が6倍になったとしても、絶対額としての所得に意味はないのです。
都心のタワー&高級マンションなどの駐車場によく見られる光景ですが、みんながファミリーカーとしてベンツ、ポルシェ、ジャガーを駐車場に停めている場合、ベンツを買ったのでは幸福感は高まりません。
その駐車場においてはそこの水準が消費規範であり、ベントレーかアストンマーチンを買うのでなければ幸福感は味わえないこともある。そのためにあまり所得がない人が無理をして購入するとすれば、それによって貯蓄率は低下することになります。
しかし、無理をしないでベンツで我慢すれば、車は位置財(周囲との比較によって満足を得るもの)ですから、満足は得られません。他の人が持っていない段階で地位財を持つことによってはじめて位置財は満足を得られる種類ものだからです。
そうして、位置財の獲得のために無理して労働時間を増やせば幸福度は失われます。この他人とのステータスの比較によって際限なく要求水準を上げていかなければならない現象について、経済学者のマティアス・ヴァンズビンガーは「ステイタストレッドミル」と呼んでいます。
彼は、ベンツSクラスが大衆化して、中流階級でも買えるようになっていた状況でマイバッハ(メルセデスマイバッハ)の登場でこう述べています。
「上流階級は、そのうちどの一軒家の前にも同じ車が駐車されるのではないかという心配をすることもなく、新しいマイバッハで自らのステータスをデモンストレーションできるようになった。
しかし、野心に燃える中流階級も、マイバッハよりは少し控えめなSクラスのニューモデルというステータスを引き続き享受している」(『お金と幸福のおかしな関係』マティアス・ビンズヴァンガー著)