生活のなかの些細な“よいこと”に気づけるかどうか

そこで、この考え方を用いて3つのよいことプログラムの効果について検証してみよう。参加者は、毎日、その日に起こったよいことを3つ書き出すことを1週間続け、21のよいことを書いた。この人たちは、プログラムに参加する前は、そこに書いたよいことを実際に経験しながら、当たり前のこととして、まったく気づきもしなかったのであろう。つまり、参加者たちは、1週間、それを実際に書くことによって、それまで見えなかった21のよいことに気づき、それによって生活の認知の仕方が変化し、その認知の変化がうつ症状を劇的に減らし、幸福感を増進させたと考えられる。

このプログラムは1週間で終了しているが、仮にこれを1カ月続ければ、約90のよいことに気づくことになる。これだけ、いままでまったく気づかなかったよいことに気づけば、日々の生活の認知の仕方がそれまでとはまったく違ったポジティブなものになっても不思議ではない。

このプログラムでは参加者の約60%が6カ月後にも自発的に3つのよいことを書き続けていたことはさきに触れたが、それはただこのプログラムが実行しやすかったからだけではなく、認知の仕方が変わることによって日々の生活がそれまでとはまったく違ったポジティブな意味を持つようになったからであろう。

ある参加者は次のようにいっている。

「1週間を振り返ると、毎日の生活のなかに、よいことがたくさんあることに気づき、生活観が大きく変わった」

「毎日、憂鬱で、自分の存在が無意味に感じられ、生きているのが辛い」

――こう感じるときには、3つのよいことプログラムを自分で実行してみてはいかがであろうか。就寝前に、その日にあったよかったことを3つと、なぜそれらが自分にとってよいことだったのかを、毎日、1週間書き続ければ、21のよいことが発見できる。そうすれば、自分の存在が無意味であるどころか、大いに意味があることに気づき、自分の存在についての認知の変化から、新たな生きる意欲が湧いてくるに違いない。

ただし、セリグマン博士によると、欲張って、10もよいことを書いたり、毎日書くべきところを無精をして、数日分をまとめて書いたりするとプログラムの効果はない、というから、くれぐれも留意が肝要である。

(*1)Peterson, C., & Others (1982). The attributional style questionnaire. Cognitive Therapy and Research. 6, 287-300. Seligman, M.E.P., & Other (1979). Depressive attributional style. Journal of Abnormal Psychology, 88, 242-247.
(*2)Seligman, M.E.P., & Others (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60, 410-421.
(*3)Beck,A.T., & Others(1979).Cognitive therapy of depression. New York: Guildford.

(ライヴ・アート=図版作成)