一方、情とともに大切にしたのが、理です。当時は酒屋さんに対する自販機の設置合戦が繰り広げられていました。自販機の設置を勧めるときに、条件面で他社に劣るなら、その状況を突破するには「理」の営業が必要になる。現在でも提唱している「課題解決型の価値提案営業」です。大手の酒販店さんも酒屋さんも、仕入れ価格の交渉などではメーカーに対して強い立場ですが、同時に、いかに売り上げを向上させるかを常に考えている。そこで大事なのは、価格交渉だけでなく、売り上げを上げる提案をすることです。

たとえば仕入れ単価の条件は他社より悪いが、当時トップシェアだったキリンの商品は回転率が高く、その分、売り上げや利益に貢献できる。そういうことを、青森の実情に合った情報を提示しながら提案する。パソコンもない時代ですから、手書きのグラフをつくって、提案書を出したものです。それはもう、必死でしたね。

情と理の両面から顧客に働きかけよ
図を拡大
情と理の両面から顧客に働きかけよ

こうした営業で大切なのは訪問です。新規開拓なら、パンフレットを持って顔を出し、次にはサンプルを持参する。それを繰り返し、熱心な担当者が来たと認識してもらうことが大事でした。逆に、長い時間をかける必要はないといえます。訪問を繰り返しているうちに、時間を取ってもらえるようになると同時に、店の課題も見えてくる。たとえばビールサーバーのメンテナンスに課題がある場合、清掃を頻繁に行うだけでも売り上げ増につながる、という提案が可能になるわけです。

こうした流れはワインをはじめ他の商品でも同様です。ある菓子メーカーで発売されている和菓子には、焼き色を出すために当社の「熟成蔵出し黒みりん」が入っていますが、こうした提案も、訪問を重ねて顧客の話を聞き出すことによって生まれました。つまり、課題は先方にある。それを見つけ出し、解決のために役立つ提案をすることが大事です。

トップセールスを行う場合も基本は同じ。現場レベルだけでなく、経営の課題を聞き出し、それを解決する提案をするということです。

最初は取りつく島がなくても、時間をもらえれば課題を見つけられる。そうなれば提案もできる。

いかにしてそこへ辿り着くか。すべては機転です。訪問を重ねながら常に考え抜くことへの執着心を持つ。それがないと情と理に訴えることは難しいでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

(大竹 聡=構成 尾崎三朗=撮影)