日本企業が今、なぜ、大きな戦略地図を描きにくいかといえば、決断のための財務的体力が弱っているなど、理由はさまざまにあるだろう。産業の構造が細分化されすぎていて、グローバル規模で言えば小さな企業に分かれすぎていることが、1つの大きな原因だろう。大きな戦略を考える視野が足元からは出てこないのである。

だから、産業の地図を再編成し、企業群の合従連衡をきわめて大胆に行うことが、戦略の常道である。それが簡単なことではないことは十分承知しているが、しかしそうでもしなければ全体が衰退する、と言わざるをえない。

日本全体のエネルギー水準が低下していることも大きな原因であろう。国全体の年齢構成が上がっていく中で、しかも豊かになってしまった日本で、それもまた致し方ないことかもしれない。しかし、それでも若いエネルギーをもっともっと多用するべき、と言わざるをえない。

さらに、当面の対策がなんとかできるような、チマチマした差別化の能力が国全体に案外あることが、もう一つの原因であろう。その能力の源泉は、個々の企業の技術者やマーケティング担当者がかなりの能力を持っているからでもあり、また外部の協力企業に質の高い中小企業が多く、彼らの手を借りてなんとか差別化できるからでもある。

そうしたチマチマ差別化能力は、当面の対策を考える際には大変ありがたい。しかし、それがなまじ多少は可能であるばかりに、よりドラスティックな戦略的変革へと人々の目を向けさせないマイナスの働きをもしている危険がある。

芸は身を助ける、と言うが、なまじの芸があるばかりに身を滅ぼすこともある。

チマチマした差別化よりも、大胆な経済合理性。それをわれわれは考える必要がある。本田技研工業の昔の姿が、今のサムスンの姿が、それをわれわれに教えている。