灯油でさえ嫌がる主婦が歓迎するのは?

では、一筋縄ではいかない趣味人たちの心を、ホンダはどのようにして引き付けたのだろうか。

06年秋。耕運機や芝刈り機などコンシューマーカテゴリーの開発責任者である北條さんは、胸の中にもやもやを抱えていた。

プロ農家の減少とガーデニング人口の増大という市場の変化は見えていた。しかし、それに対応してどのような商品を出すべきかがなかなか形にならない。

「まず現場に身を置かなくてはならないと考えて、ここ(開発センターの緑地)で土を掘り返していたのですが、実際に作物をつくっているところでなければ本当の現場とはいえませんよね。だから、もっとリアルな場所で農地を耕してみることからはじめました」

実はそのころ、北條さんは自宅を新築したばかりだった。母屋の周囲に家庭菜園や芝地を配し、そこで夫人を巻き込んで休日ごとに農作業に励んだ。思索にふける中で見えてきたのは、次のような認識だったという。

「わが家はオール電化なので灯油ともガスとも無縁です。そもそも最近の主婦は、灯油でさえ使うのを嫌がります。ましてガソリン燃料の耕運機や芝刈り機なんて、彼女らにとっては問題外ではないのかと思いました。僕はバーベキューのときに炭をおこしますが、考えてみれば、妻にはこれも無理なんですね。では、屋外で火をおこしたり耕運機の燃料に使ったりするときの候補には何が残るのか。妻に聞くと『そうねえ、カセットコンロのガスくらいならできるかしら』というのです(笑)」

このようなやり取りを経て、北條さんは「カセット式ガスボンベで動く耕運機」というアイデアを温めるようになったのである。

(芳地博之=撮影)