脳科学者として第一線で活躍する池谷裕二氏。氏が監修した本書は、巷にあふれる脳にまつわる豆知識を羅列しただけの本とは一線を画する。バラエティ番組などのようにキャッチーな側面だけを紹介するのではなく、脳の機能の説明から、脳と心の病気、脳の研究が未来をどのように変えていくかということまで、科学的根拠をもとに丁寧に説明する。さらに、2匹のネズミの脳を、インターネットを通じて繋ぐというような最新の実験も豊富に掲載した。

池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科にて薬学博士号取得。2002~05年米・コロンビア大学生物科学講座客員研究員。14年より東京大学薬学部教授。研究テーマは「脳の可塑性の探求」で、脳がいつ・どこで・どのように脳自身を変化させるのかを調べている。

「こういった実験は、物珍しさばかりに注目が集まりますが、当然ながらSF的な興味から実験を行っているわけではありません。得られた知見を人間に置き換えたときに、どんなことが可能になるかということが肝心なのです」

池谷氏が最近取り組んでいる研究の1つが「共感」に関するものだ。

共感が強いほうが、人に優しくなれそう、温かい社会になりそうだと考える人もいるだろう。しかし「実際には、ろくなことがない」と池谷氏は言う。

痛がる他人を見たとき、痛い思いをしたことがある人は、同じ経験がない人に比べて、より強い痛みを感じるからだ。それがトラウマやPTSDを引き起こす原因の1つとも考えられている。

だが、共感を担当している神経を突き止め、そのメカニズムを解明し、働きを抑制できれば、トラウマやPTSDの治療に変革がもたらされ、多くの人にとって朗報になるだろう。

「とはいえ、脳はまだまだわからないことだらけ。思いもよらない実験結果になることもしばしばです」

脳の機能の全容解明にはまだ時間がかかりそうだ。

(小倉和徳=撮影)
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