リクルートで異能のビジネスマンとして活躍したのち、東京都の義務教育では初の民間人校長として杉並区立和田中学校へ赴任し、「よのなか科」の設置をはじめ自由自在の構想力で公教育の現場に旋風を巻き起こしたのが藤原和博さん。和田中を離れてからも、全国各地の教育改革プロジェクトに携わってきた。
その藤原さんが、読書をテーマに書き下ろしたのが本書である。といってもビジネス界と教育界を縦横に行き来する著者だけに、類書とは異なるユニークな本に仕上がった。本人によれば「単に読書法や速読術といったノウハウを伝授する本ではなく、難しい教養書の羅列でもありません」。
では、どんなスタンスの本なのか。
「僕はもともと読書家ではなく、33歳まではろくに本を読んでいませんでした。年間100冊を読むと決めてからは、電車で吊革につかまりながらいろんなジャンルの本を読み進めましたが、読了したのは約3000冊。特別な読書家や教養人ではなく、この程度の経験を持つ人間だからこそ発信できることがあると思うんです」
そういう藤原さんが本書で取り組んだテーマは「人生における読書の効能」。
「本を読まない人の発想は感情に基づく『思いつき』にすぎませんが、本を読む人には社会に対する独自の『考え』があります。この違いは大きいですよ」
21世紀の日本社会はとうに「正解のない時代」に突入している。そのなかで勝ち残るには、本を読むことで得られる独自の「考え」、すなわち価値観が必要になるということだ。なぜ読書が大事なのか。素朴な疑問に納得のいく答えを出してくれる本である。
(的野弘路=撮影)