「日本人は嫌いだけど、あなたのことは好き」
著者がすべての仕事を整理して中国に留学したのはバブル崩壊期。国中が自信と元気を失っていく日本に対し、中国は改革開放が庶民に届き始めた時期で、何か起こりそうな輝きに満ちていた。そして中国になじみ言葉が上達するにつれて理解したことがある。それは中国人の日本人嫌いだ。特に何度も言われたのが、冒頭のセリフである。
「子どもに日本製のおもちゃを渡したら『日本人は悪者なんでしょ?』と不思議がられたこともあります。印象はよくはないだろうと思っていましたが、想像以上でした」
反日感情を誘発するひとつの要因が、抗日ドラマである。戦時中、旧日本軍と戦う共産党を題材にしたドラマは今も頻繁に放送。現代版ドラマもその延長線上にあり、日系企業が舞台になると現実にはありえないような駐在員が登場する。
「ドラマの影響を受けて、『日本製品は好きでも日本企業は嫌い』という中国人は少なくありません。彼らの日本に対するイメージを知らないで中国に進出して、うまく折り合えずに失敗する日本企業も数多く見てきました」
トラブルを起こさないよう、本書では中国人が抱く日本人像を愛憎相半ばに紹介する。しかし近年、イメージはさらに悪化した。反日感情が高まって大規模デモが発生し、その映像を見て日本人が中国を嫌う負の連鎖に陥っている。
希望の芽がないわけではない。ヒット映画に主演していた高倉健、山口百恵は今も国民的人気で、ポップカルチャーへの関心から、日本語を学ぶ若者も多い。著者は今や富裕層ではなく中間層も参加する「爆買い」に期待する。
「単なる買い物目的で来日した中国人は、日本人の親切さや行き届いた公共サービスに接して、ほとんどが『ごめんなさい。日本が好きになりました』と感じる。自分の目で現実を見たらイメージを変えていくんです」
戦前の中国で「李香蘭」として活躍した山口淑子の言葉が本書中に引用されている。
「交流って、一方通行、押し付けではダメなのよ。相手が魅力的に思うものを伝えていくことが大切なの」
ただ嫌っていては相互不信の鎖は切れない。いかに相手を理解し、惚れさせるか。そのとき、冒頭の言葉から「日本人は嫌いだけど」の前置きがなくなるのだろう。