「トランプとサンダース」というコインの裏表

ただ、トランプ氏だけを見ていても、「トランプ現象」の全体像を捉えることはできない。「トランプとサンダース」というコインの裏表で見るべきだ。共和党の大統領選候補であるトランプ氏と、民主党の大統領選候補者に名乗りを挙げていたバーニー・サンダース上院議員は、見た目も支持層も主張もまったく異なるように見えるが、共通点が多い。

『ルポ 貧困大国アメリカ』の著者でもある、国際ジャーナリスト 堤未果さん

両者とも、アメリカの大統領選挙史上、かなり異色の候補である。トランプ氏は既存の共和党員ではなく、過去には民主党をサポートしていたこともあるし、その発言は共和党の主張とは異なるものも多い。サンダース氏に至っては、かつては無所属だったうえ、少し前であれば多くのアメリカ人が拒絶反応を起こしたであろう社会主義を標榜している。これまでの選挙であれば、圏外の候補だっただろう。そんな2人が、片や共和党の大統領候補に指名され、片や民主党で抜群の知名度を持つクリントン氏を脅かすほどの人気を集めた。

本来であれば「圏外」であるような候補が、これほどまでに人気を集めた大きな理由は、企業献金を受けていない、つまり、企業に金で買われていないところにある。「不動産王」とも呼ばれるトランプ氏は、選挙資金を自腹で工面しているし、サンダース氏は草の根の個人献金を集めて選挙戦を戦っている。両者とも、「株式会社アメリカ」に不満を抱える人たちからの共感と期待に支えられているのだ。

共通点は多いが、マスコミの使い方はトランプ氏の方が何枚も上手だ。橋下徹前大阪市長のように、テレビを戦略的に活用している。トランプ氏は、過激で分かりやすい、テレビで取り上げやすい発言を意図的に連発。トランプ氏が出ると視聴率が上がるので、さらにテレビはトランプ氏を取り上げる。こうして、メディアの利益になるふるまいを重ねることで、知名度を上げていった。

単純で感情的な言葉は、人の心をつかむ。現時点のトランプ氏の発言は、人々を熱狂させる効果があるが、メディア受けする感情的なあおりだけで具体性はないし、その内容に責任は伴っていない。日本のマスコミは、トランプの言葉を真に受けて振り回されているように見える。

一方、サンダース氏の発言は、アメリカでも日本でも驚くほど報道されていないが、実は日本人が好みそうな誠実さを備えている。トランプ氏のように、メディア受けする過激なもの言いをしないし、医療や教育の個人負担を減らそうという日本人にもなじみやすい主張をしている。もしその発言がもっと報道されていれば、日本人も好きになるタイプの政治家なのではないかと思う。