上司を説得する。部下を動かす。得意先に買ってもらう――。なぜ、あなたの話は伝わらないのか。結果を出してきた経営トップが、“ゼロ秒で口説く”極意を明かす。
1対1の対話が10倍やる気を引き出す
社内に向けて話をするとき、私は3つのことを意識しています。
1つは自分の言葉でしゃべること。だれかが用意した原稿を読むのではなく、すべて自分で考える。スピーチする10分前まで原稿に手を入れています。メッセージに説得力を持たせるためにも、自分の思いをストレートに伝えることに大きなウエートを置いています。
2つ目は、相手の表情から納得しているのかどうかを確認して、話す内容を変えています。準備はしていても、実際に話すときは、聞いた内容を他人事ではなく自分事に落とし込めるかどうかでモチベーションが違ってきます。だからこそ相手に合わせて話すようにしています。
3つ目は、その日の朝刊で気になった話題をスピーチの合間に入れています。伝えたいのは、過去のことではなく将来のこと。将来の糧にするために、今リアルに起きていることを話題にします。各地の工場を訪れたときはその地域の最近のトピックスを、海外なら現地のニュースを、化学品事業ならその分野の話題を交えて話をするのも、自分の身に引き寄せて考えてもらうための工夫です。
スピーチのテーマは同じでも、その時々で話し方を変えるのは、今この瞬間に相手の心に一番響く方法を常に考えているからです。右から左に聞き流されてしまうなら、わざわざ同じ時間に同じ場所に集まってもらう意味はない。あえて場を設けて話をするのは、相手の胸に飛び込んで、一人ひとりに直接語りかけるためです。
私が一人ひとりと対話することの大切さに気づいたのは、紙おむつや生理用品を開発するサニタリー研究所長時代のことでした。今でこそ好調なベビー用紙おむつの「メリーズ」ですが、私が所長になった2003年当時は苦戦続きで、もうやめようかという議論も出たほど厳しい時代でした。
私が打ち出したのは、原点回帰。1983年にメリーズを出したときの思いは一つ。肌にやさしい通気性のよいおむつをつくれば、赤ちゃんがあまり泣かなくなる。お母さんはぐっすり休める。体調がよくなるから、子供にやさしくできる。ひいては家族全員ハッピーになる。ところが、厳しい競争のなかで、いつしかコスト優先になっていました。そこで、もう一度原点に戻って、みんなで心を一つにしてメリーズを復活させようと訴えたのです。