空中分解しかけてもメンバーが団結できた理由
だが、開発スキームにメスを入れただけで自動的にコストダウンが実現するほど、現実は甘くない。そもそも開発において、開発者と購買担当は反目し合う関係にある。コスト増の原因を購買担当は「自分勝手な設計だからコストが上がるんだ」と憤慨し、開発者は「安く買ってくることが購買の仕事なんだから、世界中を回って安く仕入れてこい!」と反発する。
設計者が大型の窓をデザインすると、購買担当が待ったをかける。
「でかい窓に大型ワイパーをつけてこんなに陽が当たると、エアコンもでかくしなきゃならない。エアコンをでかくしておいて、コストを安くしろ! はないだろう。最初から小さくなるようなデザインはできないのか」
設計者と購買担当の激論が戦わされた。打つ手のなくなった購買担当は、しばしば責任者の原に泣きついた。
開発チームのボスである人見から、「おまえは開発チームの立派な一員だ」と言われた購買担当者が購買本部に開発の意向を持ち込むと、「おまえは購買の人間だろう。おまえの給料はどこから出ているんだ!」と突き返されてしまう。
最後は原の出番となり、人見と直談判に及んだ。
ときに怒号が飛び交う修羅場で空中分解の危機に瀕した二代目開発チームが、最後まで団結し続けた要因は、人見が意図した〈大部屋が醸し出すメンバーの連帯意識〉だった。人見が言う。
「メンバー全員が、このクルマに懸ける気持ちを共有していた。まずは、開発担当者が自分の部品をいくらでつくると試算する。それでもコスト目標に達しなかったら開発グループ全員でなんとか知恵を出す。自分でコストダウンできないなら、目標のコストダウンを実現するために、自分の担当外の開発を手伝って目標を達成していきました」
連帯感の醸成は、やがて購買チームをも突き動かすことになる。人見の話を続けよう。
「途中からはいつも対立ばかりしていた設計と購買が一緒に部品メーカーに行って『こうできませんか?』『こういうつくり方をしたらどうでしょう』と提案し、一銭でもコストを下げる懸命な努力をするようになった」