売り上げを伸ばすには、値下げして販売数量を伸ばすのが手っ取り早いと考える人も多いだろう。しかし、これこそが典型的な失敗パターンだ。たしかに値下げをすれば、一時的に販売数量が伸びる可能性はある。しかし、価格は安いほうに引っ張られやすく、いずれは競合も安売りを始めて値下げの効果がなくなる。その先に待っているのは、身を切る価格競争だ。

価格は「信じてもらう理由」の一つ

値下げをするのがいけないのは、「ブランド」が毀損(きそん)されてしまうからだ。ブランドという資産は、認知度やロイヤルティなどの複数の要素で構成されている。その構成要素の一つがパーシーブド・バリュー(知覚価値)。わかりやすくいえば、見た目の価値である。

では、どうすれば見た目の価値を顧客に感じてもらうことができるのか。それには何かしらの「信じてもらう理由」が必要だ。たとえば私はマーケティングについて本を書いたりセミナーを開いたりしているが、自分でマーケティングの専門家だと名乗るだけでは容易に信じてもらえない。そこで、関西学院大学でマーケティングを教えているとか、かつてアマゾンやマスターカードといった有名企業でマーケティングを担当していたという実績を、自分を信頼してもらうための理由づけとして使っている。

じつは価格も「信じてもらう理由」の一つだ。消費者は、安い価格のものは価値が低いと考えやすく、逆に価格の高いものは、それだけで価値が高いと考える傾向がある。つまり価格が高いことが、消費者に「この商品は品質がいい」と信じさせる根拠の一つになるのである。

もちろん、価格が高いからといって本当に品質がいいとはかぎらない。しかし、人はある際立った特徴に影響を受けて、本来なら関係のない他の要素まで高く評価してしまうことがある。このことを心理学用語で「ハロー効果」という。

ハロー効果は、ネガティブな面でも表れる。値下げが危険だと私が主張するのも、「安いのだから価値も低いはずだ」という逆のハロー効果が働きやすいからだ。