アイデアを募っても「シーン……」

マインドマップ会議を課会に導入した無機化学品課課長の中村敦氏。
マインドマップ会議を課会に導入した無機化学品課課長の中村敦氏。

東京・北青山に名うての“マインドマッパー集団”がいるらしい。そう聞きつけてPRESIDENTは伊藤忠商事へと向かった。

本社ビル8階。眼下に、神宮外苑の銀杏並木、赤坂御用地、青山墓地が広がる絶景ビューが見渡せる会議室に同社無機化学品部の社員たちが集まっていた。

硫黄、硫酸、肥料を商材として取り扱う彼らは、ホワイトボードや窓ガラスに大きな白い紙を張り付け、何かを書き込んでいる。青、赤、黄、紫、ピンクなどカラフルな色分け。思考を地図化するツールといわれるマインドマップを使った会議中というわけである。この方法で重要案件の問題解決をしたのは一度や二度ではない。

聞けば、彼らがマインドマップ会議を始めたのは約1年半前のこと。その発起人でもある課長の中村敦氏には、3年前にここに配属されてからずっとしっくりこないことがあった。

「商品ごとのブレストや課会で、アイデアが出ない。意見が集まりきらない」

せっかく顔を会わせての打ち合わせなのに、集まる意味がない。アイデアを募っても、「シーン……」。会議は停滞し、空気は淀む。結果的には、業務を長く続けているベテラン社員が会議をリードして、他の参加者が心の中でもやもや感じていることを吐き出すことができないまま会議は終了となる。

入社5年目、坊主頭の若手・横山大輝氏も苦々しい表情で当時をこう振り返る。

「会議で1時間くらい話しても結局、最後は尻切れトンボで終わってしまう」。

08年春、無機化学品課の面々は週末を利用し、マインドマップの専門講師を招いて研修会を開いた。実は、中村氏を含め課内の3人がもともとマインドマップ実践者だったのである。「全員で一度試しにやってみよう。ブレークスルーできるかもしれない」。

議題は、「課会の活性化」「情報の共有」「引き継ぎの効率化」など、業務以前の課内の意思疎通の促進が狙いだった。

それまでは、やれ、前任者が異動するため引き継ぎをしたが不十分だった。やれ、業務マニュアルがない。やれ、個別案件のファイルの保管場所が不明……と小さな悩みやトラブルが少なくなかったからだ。「精算方法でさえ、明確なマニュアルがなく、いちいち人に聞いて、時間のロスが多かった」(中村氏)。