秘策3:現場に予算と決定権を持たせる

現場スタッフの対応、遊軍の確保には当然、コストがかかるが、必要なのは「予算の組み替え」だと巽氏はいう。

「フードとレイバー(労働)のコストを業界ではFLコストといいますが、私はこの概念を捨て、人件費も販促費と位置づけて、現場に自由な時間と予算を委譲しました。結果、思い出づくりのサービスが実現し、外国人客の拡大につながった。来店される富裕層の影響力は大きく、1人の口コミが何百人にも拡散するので、広告費と考えると安い。しかも、外国人客は滞在時間が1~2時間以内と短く、客単価も7000~8000円と1~2割高いので高単価、高回転になる。過去4年で売上高3倍の数字がその成果です」

(左から)巽益章社長。大阪で取り扱いがなかった「松阪牛」に目をつけ、飲食業界に参入。遊軍部隊の岡本邦美マネージャーと花岡みどりさん。

巽社長によれば、インバウンド戦略の秘訣は「儲けから入らない」「マニュアルから入らない」ことだという。

「ただ、特別なことをやろうと思うと失敗する。接客で当たり前のことを行う。その基準が訪日客では異なる。だからマニュアルは通用しない。まったく新しい市場ととらえ、予算の組み替えができるか覚悟が問われるのです」

素人だからこその発想転換がもたらした成功。それはインバウンド市場の難しさと新たな可能性を示している。

カギは不安解消

インバウンド作戦が成功した企業に共通するのは、旅人目線、外国人目線に徹していることだ。街が目的地となる訪日客の目線に立てば、ライバル同士でも互いにパートナーとして連携することが必要になるとわかる。「インバウンドに対して大切なのは“私とあなた”ではなく、“私たち”の意識で公共的な発想を持つこと」だとジャパン インバウンド ソリューションズの中村好明社長はいう。

真のニーズをつかむことも重要だ。売り込みたいものを売り込むのではなく、何が訪日客の心に響くかを常に考え、引き出す。

また、旅行者は常に「不安とストレス」を抱える。やまとごころの村山氏によれば、「外国人観光客が商業施設で一番不満を抱くのは“無視されていると感じること”」だという。応対する側の「できれば相手をしたくない苦手意識」がそう感じさせるのだろう。旅人の心理を汲み、「不安とストレス」を取り除き、「思い出づくり」を手助けする。

売り手目線、日本人目線からいかに脱却できるか、根本的な意識転換が成否のカギを握る。それだけインバウンド市場は次元の異なる世界であることを認識すべきだろう。

(森本真哉=撮影)
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