症例数だけで選ぶと落とし穴も

納得できる医療を患者さんに展開するためには、自分だけではなく、共に働く周囲の医師、看護師、医療スタッフの質も向上させてかなければなりません。最初は、よそ者の教授として常に監視されているような居心地の悪さがあり本当に苦痛でしたが、多くの患者さんの命を救うために、自分のやり方で心臓血管外科を改革しようと決めてからは、治療成績を上げ、成人の心臓外科手術の年間症例数を前任の教授時代の2倍の500例以上にすることを目標に頑張りました。そして、「早い、安い、うまい」手術を手掛け、術後管理にも力を入れて患者さんのリハビリを手術の翌日から開始することで、教授就任から4年後には、目標の症例数を達成しました。年間手術数500例以上は、大学病院の中ではトップ3に入る症例数です。

ただし、症例数で病院を選ぶことには、落とし穴もあります。症例数を増やすために、まだ手術が必要のない状態なのに手術を積極的に勧める病院もあるからです。外科医は、手術をたくさんやっていないと腕が落ちるという不安を常に抱えているものです。なかには、その不安を解消することや病院ランキングに載るために症例数を増やすことが目的になってしまっている外科医がいます。病院にとっても、手術数が多い方が収益は上がります。実際に、私のセカンドオピニオン外来には、まだ手術が必要のない状態であるにもかかわらず、外科手術を勧められている人が結構いらっしゃいます。

どんな名手がやったとしても、手術である以上合併症を起こすリスクがあり、薬物療法など内科的な治療で安定しているのであれば、すぐに手術を受ける必要はありません。経過を観察した方がいい場合もあるのです。もちろんあまりにも先延ばしにしてタイミングを逸してはなりませんが、手術を受ける利益が、不利益を完全に上回ったときにこそ手術を受ける意味があります。私は、循環器内科医に手術が必要と紹介されてきた患者であっても、手術の時期はいつが最適なのか判断し、しばらく様子をみることもあります。急を要する状態ではないのに心臓外科手術を勧められたときには、セカンドオピニオンを受けるなど、本当に手術が必要なのか確認するようにしてください。

また、外科手術を受ける病院を選ぶときには、手術死亡率など治療成績を確認することも大切です。症例数の多い病院の中にも、治療成績の悪い病院があるかもしれないからです。糖尿病や腎臓病などの合併疾患のある人や高齢者は、自分と同じような状態の人の治療成績がどのくらいなのか確認しましょう。合併疾患のある人や高齢者で健康状態の悪い方の手術は、合併症のリスクは高くなります。

私を含め、医療者の多くは、患者さんを救いたい一心で日夜骨身を削っています。後悔しないためには、ご本人が納得して治療を受けてほしいと思います。

天野 篤(あまの・あつし)
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。
(構成=福島安紀 撮影=的野弘路)
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