誰もが持つ“悪魔=自分の限界”を引き出す

――選手の起用に関しては、どういった面を重視されていますか?

【エディー】飛びぬけたスキルや才能を持っていることも重要ですが、それ以上に「成長したい」という意欲を持っていて、つらい練習も耐えられるかどうかを重視します。別な言い方をすれば、成功することに強烈な飢餓感を持っている人。ハングリーな人ですね。

持田昌典 ゴールドマン・サックス日本法人社長

「人間は誰しもどこかに悪魔を抱えている」などと言いますが、人によってはその“悪魔”がすぐに出てくる場合もあるし、ずっと奥の方にいて一生懸命引っ張り出さないと出てこない場合もあります。

――“悪魔”というのは、なにか自分の限界を超えるとてつもない力のことですね。

【エディー】その通りです。それは誰もが持っているものです。しかし、快適な人生を送っていると、“悪魔”はなかなか出てきません。それを引き出すほうも大変ですし、引き出されるほうも痛みを伴います。恵まれた環境にあった日本人選手たちに対して、私は敢えて厳しい環境をつくりました。肉体的にも厳しいトレーニングを強制し、精神的にもかなり追い詰めることで、その“悪魔”を引き出そうとしたのです。

【持田】エディーさんは、そうしたハングリーさを持った人を見出すことが得意な方ですし、実際にそういう人からすごい力を引き出しますよね。日本代表の試合を見ていて、アマナキ・レレイ・マフィ選手はすごいものを持っている気がしました。彼などは逆境にあったのではないかと感じたのですが。

【エディー】おっしゃる通り。マフィ選手は兄弟が15人いて、生活がとても苦しかったと聞いています。こうした選手は、こちらが何かを与えると、特別なものを返してくれます。とても信頼できるプレーヤーですよ。

【持田】私も新卒採用の際は同じような部分を見ています。苦労をしているというのはもちろん、社会や国際経済に貢献したいとか、理由はなんでもいいのですが、入社時からしっかりと働く決意がある人はやはり長続きします。なかなか見分けるのは難しいものですが。

――エディーさんも持田社長もリーダーシップを発揮し、チーム、組織を成功に導き、結果を出し続けていらっしゃいます。その意味では、“悪魔”というか、どこかハングリーな部分をお持ちなのではないかと思います。ご自身ではどう思われますか。

【持田】それはもう、間違いなくあります。僕は高校1年のときに母を亡くしています。比較的裕福な家だったのですが、大学2年のときに父の会社が倒産しました。慶應の付属小学校である幼稚舎出身で大学まで慶応に行きましたが、恵まれた環境にある同級生たちとは常に違うと感じていました。

【エディー】子ども時代は比較的恵まれた環境にいましたが、私は常にほかの子とは違っていたと思います。というのも、私はオーストラリア人と日系アメリカ人の間の子どもでしたし、体もオーストラリアの選手たちに比べて小さかったからです。スポーツで自分が成功するためには、ほかの人以上にがんばらなくてはいけませんし、よりハードに練習して準備をしなくてはならかった。そこで、どうしたら弱点を克服することができるか、困難を乗り越えられるかを考えるようになり、その道を見出すことができるようになりました。