勝って日本のラグビーの歴史を変えよう

【持田】ラグビー日本代表チームのW杯での躍進は「勝ち方を知る」リーダーの力が大きかったのではないでしょうか。

エディー・ジョーンズ ラグビーイングランド代表HC

【エディー】確かに「勝つ」ことは、日本代表チームにとって、特別なことでした。ワールドカップで勝ったことは1991年以来一度もなかった上に、初戦の相手は世界ランキング三位の南アフリカでしたから。人間というのは誰もが、なにか特別なこと、サムシングスペシャルに関わりたい、という願望を持っているものです。なにか特別なことに関わることは、自分が変われるということだからです。「勝って日本のラグビーの歴史を変えよう」という目標は、個々人が持つ能力の限界を超えた力を引き出す大きな動機づけとなったのです。

【持田】とはいえ「絶対負ける」と思い込んでいるチームを勝たせるというのは並大抵のことではありません。私は慶應大学時代、ラグビー部の副将をやっていました。その頃は早稲田大学のラグビー部が強くて、在学時代は早稲田に一度も勝てませんでした。ですが、大学4年の試合で、一度だけ早稲田に勝ちそうになったことがありました。しかし、ラスト5分、最後の最後に逆転されて負けてしまった。やはり「勝つ」ことを信じられなかったのです。

【エディー】それはやはり負け癖がついていたのです。試合終盤、勝利目前という場面でも、負け癖がついていると「ミスをするかも」といった考えが頭に浮かび、それが体を硬くさせてしまい、ミスにつながってしまうのです。南アフリカ戦の直後、主将のリーチ マイケルが「最後の七分はまるで練習のようだったよ」と言っていました。この言葉は、これまで私が選手から聞いた中で一番嬉しい言葉でした。我々は最後の七分で勝つためのトレーニングを繰り返しやってきたからです。

【持田】やはり、「勝つ準備」ができていたんですね。ただ、私は大学最後の試合で、負けてよかったと今では思っています。あのとき勝っていたら、今の自分はなかったからです。卒業後は第一勧業銀行に就職し、英語を猛勉強し、米ペンシルバニア大学ウォートン校のビジネススクールにも行きましたが、常に「一番になりたい」という気持ちが強くありました。そこで、ゴールドマン・サックスを日本で一番にしよう、と思い、ここまでやってきました。