これは全世界共通の商売人の智恵というもので、たとえばGEはインドだけで5万人を採用しようとしている。だが、そのことはアメリカ国内ではじっと黙っている。GEのようなグローバル企業は、単に人件費の安い地域に生産拠点を移すだけではなく、設計、ファイナンス、経理、人事など支援業務や間接業務も海外の最適地に移している。「ビジネス・プロセス・アウトソーシング(業務の外部委託)」と呼ばれるが、国内の雇用喪失につながるということで大統領選挙のたびに問題になってきた。

グローバル企業である以上、全世界から人材を集めて最適なフォーメーションを組むのは当然のことだ。日本企業も10年ほど前からグローバル人事の必要性に気付いて、5年ほど前から焦り始めた。韓国のように世界中どこに出しても通用するような人材を国や教育機関がつくってくれない以上、自分たちで手当てするしか生き残る道はない、と。

以前の日本企業は海外で新卒を取らなかったし、「現地採用」などと見下した言葉で海外の人材を集めていた。しかし今は違う。本社の人事部が幹部社員として正規社員の採用を世界中でするようになっているのだ。

ところが世の中の大半は、景気が戻れば雇用も戻ると信じているのだからおめでたい。要は、玉石混交どころか石しか出てこない日本の大学から誰が採るか、という話なのだ。外資系企業が日本人の採用を控えるのも同じ理由。

「日本人はいくら金をかけて教育しても、なかなかマネジャーレベルの能力に達しない」と皆口を揃える。

昔の日本がやっていたことを今、懸命にやっている国に追い越され、すでに日本企業でさえ日本の人材に見切りをつけている昨今、高校無償化などという甘ったれた政策を採れば、日本人の劣化に拍車をかけることだけは確実である。

(小川 剛=構成)