また、渋沢のいう「武士道の真髄」は次の5つのファクターから構成されており、「どれ一つとしてリーダーに欠くことのできないスペックだ」と金丸会長は指摘する。

一、正義――人の道にかなって正しいこと。
二、廉直――心が清らかで私欲がなく、正直なこと。
三、義侠――正義を重んじ強い者をくじき、弱い者を助けること。
四、敢為(かんい)――困難に屈しないで、物事をやり通すこと。
五、礼譲――礼儀正しく、へりくだった態度をとること。

「仁」と「富」は並び行いがたいものと人は思いがちだ。『論語』にも「富と貴(たつとき)とはこれ人の欲する所なり、その道をもってせずして之を得れば処(お)らざるなり」とある。それに対して渋沢は「正しい道理を踏んで得たる富貴ならばあえて差支えないとの意である」と反証し、「武士道はすなわち実業道なり」と喝破した。

フューチャーアーキテクトはクライアント先の経営者の意向を十分理解し、最適のシステムを提案することで成長してきた。営業も型通りのプレゼンでは通用しない。「損得勘定を抜きにして、まず信用されることが大切だ」と金丸会長は強調する。そんな金丸会長のスタンスが見事に表れたエピソードがある。

創業から間もなく、同業他社が進めていたシステム開発が3日後の納期を目前に頓挫。SOSを受けた金丸会長はスタッフ2人と駆けつけ、不眠不休でシステムを見直し、納期に間に合わせたのだ。「頼りにされ、当然のことをしたまで。損得は関係ない」と金丸会長はいう。

しかし、その行為こそ「敢為」であり、図らずも発注元との信頼関係の構築につながっていったのではないか。そうした金丸会長だからこそ「仁と富は両立する」と胸を張って語れるのだろう。

「日本人は飽くまで大和魂の権化たる武士道をもって立たねばならぬ」「この心をもって心とせば、(中略)商工業においてもまた世界に勇を競うに至るのである」と渋沢はいう。「不況下で商品が売れないのは当たり前と」と半ば諦めてしまう前に、ここに登場した先達の経営者たちのように武士道に立ち返って迷いを吹っ切り、自らなすべきことを見出すことが先決ではないか。

(川本聖哉、山口典利、平地 勲=撮影)