クリエイターの生涯価値向上と企業の価値創造
「24歳のとき、年収が600万円を超えました。翌年が1200万円と、倍々ゲームだったですね。企画書というのは、何本も書いているとアイデアがどんどん蓄積されていきます。それを、テレビ局のプロデューサーと飲む席で語ると、そのジャンルに詳しい人を紹介してもらえる。仕事も番組制作だけではなく、何社かの事業計画策定のコンサルティングも持ち込まれてきました。忘れもしません、28歳になったとき、気づいたら収入は4500万円になっていました」
だが、ふと自分の周囲にいるフリーのクリエイターを見回した井川は、その実力とギャランティのアンバランスさに疑問を抱いた。優秀な先輩で、演出力があるのに、年収が数百万円にとどまっている。その理由が本業の能力ではなく、営業力やコミュニケーション能力にあるということに気づく。幸い、井川は幸運にも両方を兼ね備えていた。だったら、彼らをバックアップするための事業を興そうと決意する。映画監督とテレビディレクター7人の仲間と90年会社を設立した。井川29歳、世はまさに、バブル経済崩壊後の不況に向かおうとしていた。
創業のコンセプトとして「クリエイターの生涯価値の向上と企業の価値創造への貢献」を掲げた。まず取り組んだのが、同社に登録してくれたクリエイターの仕事の確保。派遣と紹介という形で動き出す。最初はテレビ・映画のディレクターからスタートし、知的生産のプロフェッショナルをキーワードに徐々にフィールドを拡大していった。それらが、冒頭に記した事業領域につながっていく。
「世の中を見渡すと、そうした人たちが働く分野はあまた存在します。ですから、どうやって社会的ポジションを上げ、一生困らないようにしていくか……。アシスタントディレクターとして経験を積み、年収が600万円を超えたら、派遣ではなく、フリーとして業務委託という形、つまり、個人事業主の立場で『1本いくら』で仕事をするわけです。そうした道筋を我々が作っていく。クリークとリバー、小川と河川の社名の由来はそこから来ています」
現在、C&R社は3つの事業で構成されている。1つ目はクリエイターを派遣するエージェンシー事業、2つ目はテレビ番組やゲームアプリ開発、ウェブ制作などを手がけるプロデュース事業、3つ目はクリエイターが保有する著作権などの権利を資産に変えるライツマネジメント(知的財産管理)事業だ。