福祉、介護、医療、環境。重点政策の落とし穴
日本には中国のような打ち出の小槌はない。インドのような巨大な成長余力も残されていない。やはり企業が汗水垂らして富をつくり出す以外にないのだ。だが、モノづくりの強みが失われていく中、自動車や家電に代わる飯のタネを日本は見出していけるのか。
民主党は福祉、介護、医療、環境という4つの産業分野に国のR&D(研究開発)予算を注ぎ込んで、日本の強みをハードからソフトに転換していくという。
だがデンマークなどが何十年も前からやっていることを、草食系男子よろしく意気地のなくなった日本人が今さら取り組んでクリエーティブなものができるのか。これらは富の創出というより税金、国の金を食う産業だ。具体性に乏しい民主党の産業政策からは“富のニオイ”がしない。絵空事のような産業政策では雇用は生まれない。リアルな「富を創出する仕掛け」が、これからの日本には必要なのである。
そのヒントになるのがシンガポール。私は集団IQの高い国としてよく引き合いに出すのだが、彼らは狭い国土で470万人を食わせるために必死に知恵を働かせている。国のルールを柔軟に変えて海外資本を呼び込み、世界の金融センターへの地歩を築いてきた。今や多国籍企業のアジア本社が500社もある。税制すら変え、租税回避国(タックスヘイブン)としても人気が高い。法人税や所得税が低いのはもちろん、相続税もない。企業や金持ちが集まる仕掛けをつくるのに躊躇はない。またITだけではなく、バイオなどでも先端企業の誘致に余念がない。
シンガポールはもともと多民族国家だ。人口の7割を占める中国系にインド系とマレー系、植民地の名残でイギリス系もいるが、人材を世界中から呼び込んでいる。国策海運会社だったNOL(ネプチューン・オリエント・ラインズ)は、民営化後に米APL(アメリカン・プレジデント・ラインズ)を買収。その会長にデンマークの世界最大海運コンテナ企業マースク・ラインで重役を務めたデンマーク人を据えた。
今年、シンガポール取引所(SGX)のCEOにスカウトされたのは、世界最強の取引所システムを有するスウェーデン企業、米ナスダックと合併したナスダックOMXのマグナス・ボッカー社長。金融関係のトレーダーにしてもヨーロッパ最強クラスの人材を集めている。こうした人材を起用して厳しい国際競争に勝ち抜こうというのだ。水も出ない、農産物もまともに取れない不毛の島国が、国民一人当たりのGDPで日本を抜いた秘訣はここにある。