「食」でたくさんの人に喜びを感じてもらえる仕事とは
【田原】ひとくちに食といっても幅広い。具体的には何をやろうとしたのですか。
【岸田】まず思い浮かんだのが飲食店経営で、実際に現場を経験するためにフレンチレストランに頼み込み、1カ月無給で働かせてもらったりしました。でも、飲食店経営は資金面でリスクが高くて断念しました。初期投資で2000万~3000万円かかるし、家賃、人件費、食材原価のランニングコストも大きい。自分には、ちょっと踏み出せなかったです。
【田原】でも、たいていの事業にはお金がかかりますよ。
【岸田】そう思って悩んでいたある日、小澤さんが「家の前のスペースをタダで貸してあげるから、何かやってみれば」と言ってくれまして。飲食店経営にかかる家賃、人件費、食材原価のうち、家賃がタダになるならチャンスがあるかもしれない。再検討して、お弁当屋さんを始めることにしました。
【田原】場所はタダで借りられるとして、お弁当はどうしたのですか。
【岸田】最初は自分たちでつくるつもりでした。でも、やっぱりおいしくなかった(笑)。お弁当をつくっているプロから仕入れたほうがいいと思い直して、業者さんを探しました。
【田原】どうやって探したのですか。
【岸田】虎ノ門にお弁当を売るお店が並んでいるスペースがあるのですが、行列が一番長いお店に、刑事みたいに張り込みました。お弁当を卸しにきた業者さんをタクシーで追いかけて、大田区にあるお弁当工場を特定。交渉して、仕入れさせてもらうことになりました。
【田原】お弁当販売はうまくいったのですか。
【岸田】それが、始められなかったんです。準備万端でエプロンまで揃えてたのですが、直前になって、小澤さんの奥さんから「家の前でお弁当を売られると困る」とストップがかかりまして。
【田原】あらら。それは大変だ。
【岸田】結局、自分がお弁当を仕入れてリアルな場所で販売するという事業構想は白紙になりました。でも、結果的にはそれがよかったんでしょう。リアルな場所がダメならどうすればいいのかと考えた結果、いまのようにインターネットで販売するモデルにシフトできた。奥さんがノーと言っていなかったら、いまのビジネスはなかったかもしれません。