時代の進化・発展にあわせてテストも変わる

【三宅】今、企業で英語と言えば、TOEICテストという時代です。英語の資格試験はいくつもありますけども、山下さんとしては、なぜTOEICテストがこれほどまでに普及したと思われますか。もちろん、協会が広める努力を続けてきたことは間違いないのでしょうが。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【山下】いくつか要素はあると思います。まず、ETSが開発したテストだけに、品質は間違いなく高いということですね。1問1問、この設問では何を問うているのか。英語のどういう能力を測ろうとしているのかが明確になっている。試験問題を作る過程で、専門のスタッフが侃々諤々の議論をしながら、できあがってきます。

次に、結果もきっちり分析していくことになります。TOEICテストは、Listening、Readingそれぞれ100問ずつの200問で構成されていますが、ときとしてその中に正答率が極端に低い、あるいは逆に多くの受験者が正解しているといった問題が結果として出てくることがあります。他にも正答率は平均的であっても、英語力の高いグループと低いグループ間での差が見られないといった、出題者の意図とは異なる分析結果となる問題がみられることもあります。すると「この設問の出し方は正しかったのか、どこか間違っていたのではないか」と、1つひとつ、とにかく丹念に検証していきます。最終的にその問題はTOEICテストには不適切なものと判断された場合は、当該問題を採点対象から除外するという対策がとられます。

それから、出題内容は、万国共通するシーンに限定しています。例えば、アメリカではタクシーのことをイエローキャブと呼びますが、そうした特定の場所だけに通用する表現がTOEICテストに出ることはありません。そうしないと、公平さを欠くからです。

そうした特性を持つテストであるということが認識され、日本ではまず、大手企業、特に電機系とか、コンピュータ系、あるいは大手機械メーカーなどで導入されていきました。それが80年代半ばごろから90年代にかけてのことです。それぞれの会社で、社内基準を設け、管理職なら500点とか、海外駐在に行くには600点とか730点と決めたようです。そして、最近になって、一部企業では新卒採用にも、一定のTOEICスコアが求められるようになりました。企業が国際化に対応していくには、英語力のある学生を採りたいということで、結果として大学にも、TOEICテストが浸透していきました。

【三宅】TOEICテストは合否ではなくて、10点から990点というスコアが出ることが、企業のニーズにもマッチしたのでしょうね。最初は目標スコアに届かなかったとしても、半年、1年と努力していけば、550点だった人も、次に受けたときには600点になる。さらにがんばったら、700点と自分の成長が見えるというのが、すごくモチベーションアップに役立つという面があったと思うのです。会社の人事担当者にもそれが見える。

【山下】いずれにしても、世の中は激変しています。10年前にもかなり大幅な改定しましたが、10年前にはインターネットも、これほど普及していませんでした。ところが今はチャットとか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が頻繁に使われるようになってきていますので、そういう要素もテストに入り込んで、より現実の状況を捉えたものになっています。つまり、テストそのものも時代の進化とか発展に即して、これからも変わっていくということになるでしょう。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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