世界150カ国で年間約700万人が受験する、TOEICの出題形式が見直されることになった。影響は各方面に及ぶ。誰が得をし、誰が損をするのか、長く指導に携わり業界を知り尽くす大御所が語った。

新形式のテストを受けてみるまでわからない部分も

TOEIC本の著者として言えば、今回のリニューアルはとても悩ましい。出版社はすぐにでも「新形式対応版」に切り替えたいと言うし、皆さんが待望しているのもわかる。でも、実際のテストを受けてみるまでは、対策は考えにくい部分があります。

ロバート・ヒルキ
TOEIC指導者養成トレーナー。米国カリフォルニア州出身。カリフォルニア大学大学院修了。元国際基督教大学専任講師。TOEICやTOEFLなどテスト対策のエキスパートで、企業向けに講演は年間約250日の講座を行う。TOEIC関連の著書も多く『新TOEICテスト 直前の技術』(共著、アルク)、『頂上制覇 TOEICテスト 究極の技術』シリーズ(研究社)など90冊以上。

昨年11月5日に、新形式に移行する旨の公式発表があって、サンプルの問題が配られました。今、出ている“新形式対策”は、リニューアルが発表通りであることを前提にしたものです。

ただ、私は前回の教訓もあって、慎重になっている。TOEICは10年前にも問題形式のリニューアルを行っています。そのとき、Part6の長文は3つに変更されたのに、2カ月後には4つに再変更されたのです。

そのことで受験者は混乱したし、IIBCやETSも批判されました。私も、発売間近の本が全部書き直しになって大変だったんですよ。その時のことが、ちょっとトラウマになっている。

それでも当時、TOEICはまだ数ある英語テストの1つでしかなかったし、私みたいなオタクもさほど多くなかった。けれど今やTOEICは、世界で年間約700万人が受験する巨大なテストになっている。世間の注目度は前回の比ではない。

それに、この前までコンスタントに800点以上出していた人が、出題形式が変わった途端に700点台しか出せなくなったら、テストとしての信頼性に疑問が生じる。だから、ETSはリニューアルによるインパクトは出したくないと考えているはずなんです。