「楽しい場所」として思い出に残る空間に

【弘兼】すこし前までは、駅で服を買うなんて考えられませんでした。小売店の同質化が進むなかで、どう差別化を図りますか。

【大西】私は日本から百貨店がなくなるとは考えていません。上質で適正な価格の商品。歩くだけでわくわくするような環境と空間づくり。そして1対1の手厚い接客。店頭でのもてなしは、百貨店の最大の強みです。

【弘兼】商品だけでは勝負はしない。

【大西】おっしゃる通りです。いま伊勢丹新宿本店では、「世界最高のファッションミュージアム」を目指して、大規模なリモデル(改装)を進めています。2013年の婦人フロアのリモデルには約100億円の投資を行いました。商品を販売するだけではなく、驚きや発見など、ミュージアム(美術館)に行ったような満足感をもっていただくのが狙いです。

【弘兼】各階の雰囲気もガラッと違いますね。さきほどご案内いただいた3階の婦人服売り場は、天井の装飾がシャンデリアのように輝いていて印象的でした。

【大西】実はフロアごとに「香り」も変えているんです。エスカレーター付近にアロマの噴霧器があり、印象を変える試みをしています。

【弘兼】2階にはシャンパンを飲めるバーカウンターもありますね。ほかにも売り場のなかに飲食や休憩のできる場所が、自然に織り交ぜられていると思いました。これも新たな試みですか。

【大西】リモデルの際に考えたのは、「百貨店の良さを取り戻したい」ということでした。「目的買い」だけでなく「遊びに行こう」と思い出していただきたい。店を出たときに「今日は楽しかったね」と満足していただけるか。お買い物をしていただけたかどうかは二の次です。

【弘兼】たしかに思い出に残っているのは、買った商品より、食堂での「お子様ランチ」かもしれません。

【大西】レストランは重要ですね。いまの新宿本店で感度の低いところです。次のリモデルでは飲食・レストランを徹底的に変えるつもりです。

(1)伊勢丹新宿本店の外観。(2)メンズ館8階の万年筆売り場。(3)「男の生活空間」をテーマにした逸品がならぶ。(4)シックな雰囲気。(5)本館1階正面玄関前での朝礼の様子。(6)大西社長もお辞儀で出迎える。(7)挨拶のあとは現場の声を聞いて回る。