全商品の5割以上は「手頃」な価格に抑える

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圧倒的な売上高の「伊勢丹新宿本店」

【弘兼】大西さんが手がけられた「メンズ館」は、そうしたブランドの壁を取り払った開放的な売り場が特徴的です。なぜそのような売り場を目指したのですか。

【大西】我々がイメージしたのは、ニューヨークの五番街にある高級百貨店「バーグドルフ・グッドマン」でした。ブランドごとの壁はなく、シャツや鞄、靴など、売り場は商品ごとに分かれている。環境と空間づくりへのこだわりで、ファッション感度の高い男性に選ばれていた。実は、リモデルの前まで、「男の新館」の買い物客の75%は女性でした。我々は「代理購買」と呼んでいますが、その服を着る本人ではなく、奥様が商品を選んで買っていたのです。

【弘兼】そもそも男性は百貨店に来ていなかった、ということでしょうか。

【大西】それもあると思います。一般的に百貨店の売上高の35~40%が「婦人服」です。次が「食品」で20~30%。これに対し「紳士服」は6~7%です。百貨店のお客様の中心は圧倒的に女性なんです。

【弘兼】思った以上に紳士服の割合は少ないのですね。「メンズ館」への投資には反対もあったのでは。

【大西】リモデルには約45億円を投じました。改装前、「男の新館」は、東京23区内の百貨店の紳士服で25%のシェアがありました。目標はこれを33%まで高めることでした。

【弘兼】高い目標ですね。

【大西】そのためにはファッション感度の高い男性を取り込む必要があります。いくつかの主要ブランドを縮小するなど、大胆な絞り込みも行いました。顧客減も覚悟しましたが、結果的には新規顧客が30%ほど増え、メンズ館全体ではリモデル前より売上高が20%ほど増えました。

【弘兼】「百貨店に男性は来ない」という業界の定説を、見事に打ち破ったわけですね。

【大西】ただし当時の武藤信一社長はアナリストから「落ち込んでいる紳士服市場に大きな投資を行うのは、成功したとしても経営判断としては支持できない」と指摘されたそうです。そういう意味ではイレギュラーな賭けだったのかもしれません。