“何もしない10分”が生み出す劇的変化
ハーバード大学のサラ・ラザール博士らは、被験者16人に8週間のエクササイズを行うように指示をし、その前と後に脳のMRI検査をほどこしている。この実験が終了したときには、多くの参加者が行動、記憶、ストレスに関係する海馬や扁桃体といった脳の領域に大きな変化が見られ、ストレスも軽減されていた。またこの実験で瞑想と神経活動の相関関係は明らであり、定期的に瞑想をすることで、短い期間で日常生活での心理的な作用を変える結果が得られたという。
つまり、瞑想はただリラクゼーション以上に、脳に働きかけ、私たちの神経活動にすら影響を及ぼすことがわかったのだ。こうした瞑想状態を言葉で説明すると、「自分を一歩下がって眺めることによって、思考をはっきりさせるもの」であり、また「リラックスしながらも集中した心で観察すること」だとされている。瞑想には多少の訓練が必要だが、練習によって誰でも習得可能だとされている。
10年に及ぶ仏教瞑想の旅ののちに瞑想の提唱者となったアンディ・ブティコムは、仏僧を経験した後、英保健医療委員会公認の臨床瞑想コンサルタントとして活動してきた。そんな経験をもとに瞑想の大切さを伝え「最近10分間だけ平静だった時間はいつか思い出してください」と語りかける。それは、テレビもネットも食事も読書もせず、過去を振り返ったり将来を見据えたりすることもなく、“ただ何もしない”という意味だ。
私たちはストレスを発散するために、酒を飲み、カラオケで必死に歌い、休む間もなくストレスを解消するために行動する。その結果として、むしろストレスが溜まる循環を招いてしまう。多くの人が「何もしない10分」など、いつあったか思い出せないかもしれない。
アンディは「心は洗濯機のように勢いよく回っており、難しくてややこしい感情の渦に飲まれ、どうやって抜け出すかも分からないんです。自分にとって最も重要なことを見失っています」と語りかける。慌ただしい日常の中で、さまざまな事象に心を奪われて、自分自身を振り返る時間もない。そんな毎日を送る人がどれほどいることだろう。
先のハーバード大学の研究で、瞑想に伴う変化が見られた領域にMRI分析の焦点を当てて行われた結果、学習や記憶にとって重要な領域だと知られている「海馬」や自意識や同情心にかかわる部分に変化が認められている。瞑想では、α波をコントロールできるようになり、心配や不安が減ってストレスが軽減され、集中力がつき情報処理能力が高まり……、といった成果が得られるわけだ。では、具体的にこうした瞑想をどのように行ったらいいだろう。